フリーWebカレッジ 組織運営学科 コース000001 小説式eラーニング 推理小説が教科書フリーWebカレッジ


小説式eラーニング 「ヒューマンエラー」 シンプルテキスト版 担当講師:蒔苗昌彦


●セクション3

 課長は社有車※1を運転し、私を病院まで運んでくれた。地元の救急指定病院だったから、すぐに着いた。課長は車から降りなかった。車の中で待っていると言う。A子さんに付き添っているであろう両親に気がひけたのだ。

 いざ一人病室へ向かう段になると少し心細くもなったが、利己的な動機※2が背中を後押しした。

 しかし、A子さんの個室へ片足を踏み入れたとたん、背中から倒れそうになった。彼女の痛々しい姿と、付き添う両親の必死の姿が、私の動機を吹き飛ばしたのだ。

 このあと、事故の全容を推理し切るまでの三日間、いったい何が背中を押したのだろう? 被災者とその家族に対する同情か? 正義感か? いや、長いあいだ私を同じ仕事に縛りつけてきた会社に対する鬱積だろうか?・・・ 分からない。ただ、これまで全く経験のないほどエネルギーが沸いたことには違いなかった。※3

「どうだった? なにか分かった?」
車へ戻った私に、課長は報告を求めた。
「いいえ、何も分かりませんでした・・・」
 鎮痛剤の影響もあってか、A子さんは深く眠っていたのだ。

 私の権限が低いからだろうか。女性だからであろうか。ご両親は私には喰って掛かって来なかった。それどころか逆に、「ご苦労さま」とまで言ってくれた。この声掛けに励まされ「目撃者がいない」という情報を伝えることができた。これで、事故の経緯は本人へ訊くしかないという現実を、両親は自動的に理解した。会社側からの説明を強く求めていただけに、二人はがっくりと肩を落とした。
 父親は大きく吐息をついた後、A子さんが目覚めたら連絡をくれると約束した。私用の携帯電話を持っていた私は、その番号を残して病室を去った。

 「そうだろうなあ、鎮痛剤だけじゃなく、鎮静剤も投与してるかもしれないしなあ・・・」
 課長はクーラーの効いた車内でハンドルに両手を載せたまま茫然とした。

 私もどうしていいか見当つかず、考え込んだ。たとえ半歩でも踏み出すこと※4はできないものだろうか? 人間へのインタビューができないなら、物について調べることだけでも※5・・・。

 そうだ!

「課長。どうでしょう、お父さんから連絡があるまで、マニュアル※6と現場を照合してみませんか?」
「そうかあ、昨日、現場のほうは何度も見たけれど、マニュアルは確認しなかった。でも、実際、あるのかなあ・・・」
「それは当然あるでしょう」
「え? アッちゃん、バトルジェットのマニュアル、見たことあるの?」
「いいえ。まだ見たことはありませんが、今どき、マニュアルがない施設だなんて・・・」

 前にいたカフェチェーン事業部でさえ、簡単なものとはいえ、店舗運営マニュアルがあった。ましてや大掛かりな機械操作や安全管理をちゃんと行なう必要があるスリルライド。マニュアルがないはずがない。
 課長は車を発進させた。事業部の本部ビルにある人事課のオフィスには戻らなかった。遊園地全施設のバックヤードにつながっている通用門から入り、社用車専用の駐車スペースに車を止めた。

(c)アイディアファクトリー株式会社
 
  当コース冒頭へ 

  ビジュアル版へ  

  フリーWebカレッジのTOPページへ  

※1:社有車がある限り、業務上の行動において、私有車を利用することは望ましくない。が、実際には、個々の会社や団体の規定による。
※2:「動機」の定義:人間の言動を推し進める内的な心理要因。なお、それは利己的な場合もあれば、利他的な場合もある。
※3:主人公アッちゃんの利己的動機は一度綺麗に吹き飛び、今度は別の動機が沸いたことになる。つまり、或る動機が、別の動機に入れ替わったわけだ。こういう心の推移は、現実世界の人間においても、起き得ると筆者は判断する。
※4:まずは一歩でも半歩でもいいから踏み出すことが大切。踏み出せばそれなりに道は開けるが、踏み出さなければ道は開けない。目指すものが遠くにあればあるほど、大きければ大きいほど、早々に、初めの一歩なり半歩なり、踏み出そう。
※5:人へのインタビューは、対象者の都合や心情にも配慮する必要があり、そのため順調にいかない場合がある。また、応じてくれたものの、不的確な情報を掴まされる場合もある。これに比べ、物についての調査は、順調に進めやすい。半歩でもいいから踏み出そうとした主人公アッちゃんが、物について調べようと思い立ったことは、当然の成り行きである。
※6:マニュアル」の定義:業務や職務の遂行の方法、機器の使用方法等を記した文書等の情報媒体。なお、この定義を前提とすれば、マニュアルの内容や形態は多様。したがって、我々はマニュアルなるものをさらに深く掘り下げて考える必要がある。学習オプションにて、その場を設けるので、必ず立ち寄ること。

他のセクションへ飛ぶには次の該当番号をクリックして下さい(合計40セクション)。
         10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40  


小説本文中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。
現実世界での労働災害防止活動についての情報は、 中央労働災害防止協会 http://www.jisha.or.jp/
のサイトをご覧下さい。
 


●制作・著作:蒔苗昌彦(担当講師)

二次使用について
当コンテンツはすべて、閲覧者自身の勉強用としてパソコンのモニター画面上で閲覧する行為に限定し、公開しています。それ以外の使用(組織的利用・商業利用・転載等や印刷等)については著者から二次使用許諾を書面にて得て下さい。なお、二次使用許諾を得て頂いた法人・個人には、特典として、印刷に最適のレイアウトデザインをしたA4版PDF版を で貸し出し致します。二次使用許諾についてのお問い合わせは、必ず、電子メールにてご連絡下さい。

 info@free-web-college.com

小説式eラーニング「ヒューマンエラー」日本語版version1.00  セクション1  


●以下は、推薦サイトです。(フリーWebカレッジ以外の教育・eラーニング系サイト)

1.財団法人高度映像情報センター eラーニングその他各種教材のポータルサイト 7000を超える教材情報を登録
  → http://www.kyouzai.info/ 

2.マサチューセッツ工科大学(MIT)オープンコースウエア(OCW)。同大学が公開する講義・教材にて誰もが で勉強ができる。
  → http://ocw.mit.edu/

3.日本eラーニングコンソシアム(eLC)が運営するeラーニング情報ポータルサイト。eラーニングに関する最新ニュース、企業・学校のインタビュー、講座、イベント、書籍の紹介。また「eラーニング」製品を検索できる。
  → http://www.elc.or.jp

4.総務庁消防庁が運営する、防災・危機管理がテーマのwebカレッジ。
  写真を活用した分かりやすい内容で、子供から大人、一般人から専門家まで、防災・危機管理を幅広く学ぶことができる。
  → http://www.e-college.fdma.go.jp

思考訓練学科開講記念小説へ

to the english contents 0000001