●セクション10
パートタイマーの男の子は黙々と食べ終え、アクセスドアからプラットホームへ出ていった。そのドアが閉まり切らないうちに、同じドアからマネージャーが車庫側へ入ってきた。現場管理職用のジャケットとスラックスを着ていたので、すぐマネージャーと分かった。
「教育係だった彼、今日は午後出勤です。ユニフォームに着替えた後、ここに来るはずです。あと十五分ぐらい掛かるかもしれませんが、ここで待っていて下さい。でも、彼、今日は『ポジのローテ』に入る予定なので、手短にして下さいね。なにしろ連日大変な入園者で、外もすごい待ち列ですから」
到着したマネージャーは、私たちが時間を浪費しないように念を押した。
「えー、『ポジのローテ』って、なあに?」課長は私のことを紹介もせず、マネージャーへ質問をした。
「えっ? 知らないんですか? 事務方はこれだからなあ・・・」
課長より年下。しかし人事制度上、職位が同等となるマネージャーは、あきれた顔つきをしてみせながらも、紹介されていないままの私へも時おり視線を配分しながら、詳しく説明してくれた。
ポジとは、ポジションの略。ローテとは、ローテーションの略。運行に必要なポジションが多数あるライドでは、スタッフが各ポジションを次々と渡り歩き交替していく方式を取っていて、これを『ポジのローテ』という。一つ前のポジションに就くスタッフが、次のポジションに就いているスタッフを押し出すことになるので、ところてん方式とも呼ぶ。ポジション数よりも多い人数をローテに投入することで浮いている人間を作り、休憩に割り当てるためにこの方式で運営する。
「なかなか合理的なやり方だねえ。で、何分単位で、次のポジションに移っていくの?」 課長は感心したうえで訊いた。
「通常は15分で、食事時間帯は45分ですよ」
「きっちり?」
「まさか。ゆらぎがありますから。いったんローテへ投入したら、スタッフ自身の判断に任せています」
「ふーん。でもさあ、パートタイマーは出勤時間がまちまちだし、遅刻とか欠勤もあるだろうし。どのタイミングで投入するとか、どのグループへ投入するとか、誰が決めるの? もしかしてマネージャーが自分で?」
「まさか。私は、ライドエリアにある沢山の施設をまとめて観ている立場ですから。そうしたことを決めるのは、個々のライドのチーフです。」
「そうかあ、チーフねえ・・・」そう言いながら、課長はマネージャーから私へと視線を移した。
(あとでチーフにもインタビューしよう!)と課長は目で伝えてきたのだ。私はそれを即理解した。課長と私のコンビネーションは段々向上してきたのである。
「ところで、バトルジェットの運行に必要なポジションって、いくつあるの?」課長は訊いた。
「配置図をみないと、正確には・・・。とにかく、ふだんの運営はチーフに任せてあるので、完全暗記とまではいかなくてね。いずれにしても、インタビューの後、案内します」
「そ、そう。ありがとう。でも、俺たち、ユニフォーム着ていないよ」
「4、5分でさらっと眺め渡すだけだから、私の権限で例外扱いにしますよ」
「え? そんなに短くても、全部のポジションを見ることができるの?」
「屋外の待ち列整理ポジションを除いてですけどね。あちらは案内するまでもないでしょう。長い列に多数のスタッフがいますが、一定間隔で配置してあるだけのことなので。4、5分で見ると言ったのは、プラットホーム周辺のポジションです・・・。あ、待てよ。監視室のことを忘れていたな・・・」
「なあに、監視室って?」
「プラットホーム全体を見渡せる部屋が、二階部分にありましてね。運行状況もコンピュータ画面で観ることができるし、車庫へジェットを引き入れる際にもポイント切り替えしたりと、いわば管制塔みたいなポジションです。これまで案内すると4、5分じゃ済まないな・・・。そこのアクセスドアを開ければ、監視室の窓が見えるはずだから、今、覗いてしまいましょう」
マネージャーは立ち上がってアクセスドアへ行き、それを手前に開け放った。
プラットホームは混み合っていた。電車のラッシュアワーには敵わないかもしれないが、お客様でびっしり詰まっていた。
マネージャーは、左手で二階部分を指した。その方向に目を移すと、大きなミラーガラスの窓が見えた。お客様の側から監視室の内部が見えないようにする仕掛けである。 このため、他のポジションとは、ヘッドセットフォーンもしくは内線電話でやり取りをし、身振り手振りのボディランゲージによる情報伝達は行なわない。
「あのー、マネージャー。監視室から、車庫内は見えないんでしょうか?」
ショーゾーンと車庫の間は、仕切り壁によって視界が遮られている。それは分かっていた。しかし、監視室と呼ぶぐらいだから、車庫の中もテレビカメラで映しているのかもしれないと思い、私はマネージャーへ初めての質問をした。
「おっ、そうだ! アッちゃん、いいこと訊いたね。テレビカメラがあるんなら、事故の瞬間、録画されてるかもしれない」課長がフォローした。
「いいえ。車庫にはカメラが一台も設置されていません。だいたい車庫内はフラットな床ですし、ブレーキシステムもなく・・・。こうした物に挟まれるという危険性もありませんから。モニターするまでもないことです。この点からしても、昨日の労働災害は、本人の不注意といえますね」
本人の不注意。
またもこの嫌な言葉が飛び出した。私は一瞬ムカッときた。しかし、態度は高飛車ながらも妙に詳しく説明してくれるマネージャー。心象を悪くしてはならないと思い、軽く深呼吸してから、彼の見解に同意したふりをした。


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