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小説式eラーニング 「ヒューマンエラー」 シンプルテキスト版 担当講師:蒔苗昌彦


●セクション24

 チーフが内線で一人目をテーブルに呼んだ。まもなく、アクセスドアが開き、女性が入ってきた。チーフが紹介をした後、テーブルに着いた。

 彼女は、『トンネル出口係』だった。

 とはいえ、交替の間隔に揺らぎがある押し出しローテーション。彼女にしてみれば、或る一つのポジションだけで長時間過ごしたわけではない。どんどん次のポジションへと移っていく。あくまで、「労災時点でそのポジションに就いていたであろう。」と推定された人間でしかない。
 だが、私は関係者の実名を隠すことを冒頭に約束した。そのため、これから登場するポジションに就いていた人たちは皆、『何々係』とだけ述べる。

 ちなみに、『トンネル出口係』の彼女も、A子さん同様パートタイマー。大学生。夏休みになってから雇用。バトルジェットのみならずバトル遊園で働くのも初めてで、一ヶ月ほど経っている。

「ローテーションの順番からいくと、『トンネル出口係』に就く前、プラットホームの『待ち列誘導係』に就いていたはずですが・・・」
 まず、私はそこから確認した。
※1
「はい。そうです。」
「『待ち列誘導係』に就いていた時、何か特別なこと、ありましたか?」
「いいえ。何も起きませんでした。待ち列は順調に流れていましたので。ただ眺めているだけで済みました。」
「では、『トンネル出口係』に就いてからは?」
「就いてから2、3分して、プラットホームの『待ち列整理係』から、カットの依頼がありました。」

「カット?」課長が質問をしてきた。
「課長。ほら、カットアンドゴーの・・・」私が代わって答えかけた。
「あ、そのカットね。お客さんをプラットホームの手前で止めたというわけだね。失礼。続けて下さい。」

「でも、『トンネル出口係』の立場からしてみると、カットは必ずしも特別な事というわけではありません。プラットホームの混雑度に応じて、ちょくちょく依頼が出ます。」チーフが補足説明をした。
「つまり、『待ち列整理係』からのカット依頼が、何の理由で発生したのか、その都度知らされるわけじゃない、ということだよね?」マネージャーがチーフと彼女へ確認した。
「はい。」チーフと彼女は同時に答えた。
「では、今回の場合も、カットの理由は、知らなかったのですね?」私は確認した。
「はい。今にしてみれば、たぶん、あの時のカットが事故のあたりだ、とは思えますが・・・」
「どうしてそう思えるのですか?」
「ゴーの合図をくれるまで、ふだんよりも長い時間、待たされた気がするからです。」
「長い時間というと、具体的にはどのぐらいでしょうか?」
「タイマーで測っていたわけではないので・・・」そう言いながらも彼女は腕時計を見た。
「うーん、ふだんのカット時間が、長くてもせいぜい20秒から30秒ぐらいだから、たぶん2分近くでしょうか・・・」しばらくして彼女は推測を述べた。

「ゴーの合図が来るまで、プラットホームの上でどんな動きがあったのか、見えましたか?」
「いいえ。すでにプラットホームへ流してあったお客様の混雑に遮られて、他の係の動きまでは・・・」

「プラットホームの上は、屋外の待ち列以上の混雑度になりますからねえ。こう言っている今も、そこのアクセスドアを開ければ、実感することができますけどね。」マネージャーが口を挟んだ。
「チーフ。今、ふと思ったんだが・・・」そしてマネージャーはチーフへ話し掛けた。
「トンネル出口をカットしている以上、プラットホームへのお客様の流入が止まるよね。つまり、待ち列は徐々にすいていくよね。すけば、他の係の動きも見えてくるから・・・」
「いや、マネージャー。符合しますよ、彼女の話。カットの間、腰抜けジェットに続けて不具合ジェットが発生し、それにA子さんが轢かれたわけですから。乗車も滞り、待ち列は進まず、プラットホームはすかなかったのですよ。」チーフは断言した。
「はい。そう言えば、ゴーの合図まで、待ち列はほとんど前へ進まなかったと思います。」チーフの説明を彼女が裏付けた。
「そうか、なるほど。」マネージャーは納得した。

「では、確認しますと・・・。A子さんの事故のことは、後で知った。『トンネル出口係』に就いている間は、ふだんよりも長く待たされただけ・・・ということですね?」
 私はハッキリと確認した。
「はい。その通りです。」
「で、ローテーション上、次は?」
「休憩の番でした。」
「その通りにしましたか?」
「はい」
「A子さんの事故が発生したことは、あなたを押し出しにやって来た人。つまり、ローテーションの上で一つ前の『待ち列誘導係』から情報を得たのでしょうか? 名前はP君と聞いていますが。」
「いいえ。その時には・・・。ただ、今から思えばですが、P君、とても慌しい様子で移って来た気はしますけれど。」

「そりゃあ、事故を目撃すれば、誰だって焦って慌しくなるよなあ・・・」課長がつぶやいた。
「いや、事故の瞬間は、誰も目撃していませんよ。だろ? チーフ。」マネージャーが言った。
「ええ。念のため再度確認しましたが、目撃者は一人もいません。」チーフは答えた。
「分かってる、分かっている。今、俺が言ったのは、事故の瞬間のことではなく、被災直後の姿のことだよ。」課長は弁明した。
「課長。P君が被災直後を見たということも、未だ確認してませんよ。」私は課長へ釘をさした。※2
「あ、そうだったね。ごめん。で、そのP君は、今日、15時半に出勤予定だっけ?」
「ええ。遅刻や欠勤の事前連絡はありませんし、予定通り出勤すると思います。彼女のほうは、もうローテへ戻していいですか?」

 チーフは課長に応じた後、私へ確認した。私は了解し、インタビューの二人目を呼んでくれるようお願いした。

<次セクションへ続く>

 
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※1:インタビューのとっかかりとして、適切である。単なる事実確認なので、相手も答えやすい。
※2:課長の推理は飛躍しすぎているので、アッちゃんが釘をさしたのは、当然である。

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小説本文中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。
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