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小説式eラーニング 「ヒューマンエラー」 シンプルテキスト版 担当講師:蒔苗昌彦


●セクション25

 二人目は、『退出誘導係』だった。

 男性。彼もパートタイマー。四月に雇用したが、土日祝日と、夏休みだけの出勤である。当初からバトルジェットに勤めている。

 『退出誘導係』は、閑散期には設定されないポジション。帰還ジェットから降りた客を、建物の出口へと繋がる通路へ流すだけの簡単な役割である。

 私は、このポジションは、事故があろうとなかろうと重要ではないと思っていた。そのため、特に質問することはなかった。
 しかし、マネージャーへ「事故当時のプラットホーム周辺全てのポジション」と依頼してしまった手前、今さら「やはり不要でした」と返してしまうことはできない。そこで、私はさきほどと似た流れで質問した。いわば手続き上の形式的な質問である。

一つ前に就いていたポジションは?
「モニター係でした。」

その時に特別なことは?
「何もありませんでした。順調な運行だったので、ただモニターを眺めているだけで済みました。」

『退出誘導係』に就いている最中は?
「何も異常はありませんでした。次々帰還するジェットから降りて、流れて来るお客様をさらに出口通路へと誘導していただけですから。ただ・・・」

ただ?※1

「ただ、『降車係』の様子から、腰抜けジェットが一台発生したのかな? とは思いましたが。でも、たとえ腰抜けジェットが発生しても、『退出誘導係』はその対応に関わりのないポジションなので、あくまで推察です」

腰抜けジェットの後に、安全バーが降りない不具合ジェットが発生したことは知っていた?
「いいえ。今、初めて知りました。『退出誘導係』は、この対応にも連携しないので」

次はどのポジションへ?
「『降車係』に入りました」

『降車係』を押し出した際、何か特別な引き継ぎ事項は?
「ありませんでした」

『降車係』に就いた後は、何か変わったことは?
「普段どおりの運営をしました。腰抜けジェットの発生もなく・・・」

 これで二人目は終わった。

 三人目は、『降車係』だった。男性。パートタイマー。昨年のクリスマスシーズンから正月が終わるまで。そして、春休み期間にバトルジェットの経験あり。夏休みから三度目の雇用。

 『降車係』は、降車側プラットホームに立ち、帰還したジェットから乗客がスムーズに降りるよう声掛けをする。空車となったら、『発車係』へその旨合図を送る。これが基本的役割だ。

 が、もし帰還ジェットに腰が抜けた乗客がいた場合には、車庫内でゆっくり降りて頂くよう手配する旨を伝え、『発車係』へ対応を依頼する。複雑な手順が伴うポジションではないが、お客様の足がおぼつかず転倒したり、ジェットとプラットホームの間に足を落としてしまう可能性があるだけに、的確な判断が求められる。※2

一つ前に就いていたポジションは?
「退出誘導係です。」

その時に特別なことは?
「何もありませんでした。」

『降車係』に就いている間は?
「腰が抜けたお客様が一人、発生しました。降車不可能と判断して、対応を『発車係』へ依頼しました。」

その対応は、順調だった?
「順調だったのでは、と僕は思いますけど。依頼を出した後は、『発車係』やその他の係へ任せることになるので、彼らの対応については正確に分かりませんが・・・」

腰抜けジェットの後に、安全バーが降りない不具合ジェットが発生したことは知っていた?
「いいえ。今、初めて知りました。『降車係』はその対応に一切関わらないので・・・」

「安全バーの不具合は、プラットホームの先でしか確認できません。だから、関わらないというより、知りようがないということになります。」チーフが補足した。

次はどのポジションへ?
「発車係に入りました。」

『発車係』を押し出した際、何か特別な引き継ぎ事項は?
「ありませんでした。ただ・・・」

ただ?

「今から思えばの話ですが。ずいぶんとホッとした様子というか、疲れて力が抜けた様子というか。そんな感じで休憩へ移って来た気がしますけれど。」
「そりゃあ、腰抜けジェットの後に、不具合ジェット。そしてA子さんの事故。続けて対応すれば、『発車係』としてはグッタリだよなあ・・・※3 課長がまたつぶやいた。
「課長。『発車係』がその時点でA子さんの事故を知っていたかどうか、未だ確認していませんよ」私はまた釘をさした。
「そうですね。その点は、未だ確認できていません」チーフが同意した。
「あ、そうか。そうだね。じゃ、あとで確認しなくちゃ」
「えー、『発車係』に就いていた者は、今日は休みです。でも、明日は出る予定なので、出勤一番にここでインタビューできるよう、手配しておきます」チーフが勤務予定表を見ながら言った。
「そう。時間は?」マネージャーが訊いた。
「朝の7時半です」チーフは予定表を確認した。
「この時間でも構いませんか?」マネージャーが課長と私へ確認した。もちろん了解した。そして、私は最後の質問をした。

次のポジションで何か変わったことは?
「引き続きたくさんのお客様がいましたが、スムーズに運営できました」

 『降車係』はローテーションへ戻った。

「これで、残りは5ポジションです。」
 降車係をローテーションに戻した後、チーフは言った。
「えーと、ここと、そこと、あそこをやったのだから・・・」
 課長がテーブルに広げてあるポジション配置図をのぞき込みながら言った。
「残るは『待ち列整理係』と『発車係』と『乗車係』。それに、『最終確認係』。おっ、監視室の『モニター係』もかあ。いやはや、運営には本当にたくさんのポジションが必要なんだねえー・・・※4
「混雑時期は、お客様の安全を確保するために、どうしてもそうなってしまうのですよ。」マネージャーが言った。
「で、『待ち列整理係』のP君。彼のインタビュー、15時半というと、ちょうど1時間後だね。」
「はい。予定通りお願いします。」チーフが応えた。
「で、『発車係』は、明日の朝7時半と・・・」課長は手帳にメモをした。
「そんで、残る三つの係は?」
「『乗車係』は、17時に出てくる予定です。えー、『モニター係』も同じ時間ですね。『最終確認係』は今日は非番ですが、明日の13時に出勤予定です。それも押さえておきます」
「そいじゃ、15時半にまた来るね。だけど、17時のほうは、俺、来れないなあ。A子さんの転院や費用の件とかで、専務の自宅まで相談に行くことになったんだ。事業部長と一緒にね。だから、アッちゃん、あ、いや、樫見君に任せていい?」
「は、はい」

「ところで、俺、昼食を逃しちゃったから、今から現場用の食堂へ行こうと思うんだけど、混んでるかなあ?」
「ピーク時間帯は過ぎてますから、大丈夫ですよ。私も、昼食まだですから、一緒に行きましょう」マネージャーは課長を誘った。
「そう。じゃ、一緒に。チーフは?」
「済ませてあります」
「アッちゃんは?」
「私も済んでます」
「じゃ、俺、マネージャーと食事に行って、15時半に戻るから。アッちゃんはどうする?」
「そうですねえ・・・。管制情報室へまた行ってみようかと思います」
「そう。じゃ、よろしく」

 課長とマネージャーは出ていった。チーフは管制情報室への一番早い行き方を教えてくれると言い、パーク全体の見取り図を、仕切り壁に立てかけてある棚から取り出した。

 バックヤードの外周道路を回っていけば、たいていの現場に行けるが、建物と建物を直接つなぐ通路もあり、ショートカットが可能となっていた。現場の人たちは、これを『獣道』と呼んでいた。チーフは、バトルジェットと管制情報室を結ぶ『獣道』を、テーブルに広げた図で説明してくれた。

 チーフの説明が終わった時、携帯メールが届いた。また、U子からだった。今度は、直接A子さんに関わる情報とのことだった。

 内線を借り、衣装管理部へ電話をした。U子は、事務所の留守番になってしまったから、自分の席まで来て欲しいと言った。チーフから、衣服管理部までの『獣道』も教えてもらった。

<次セクションへ続く>

 
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※1:相手のちょっとした言葉尻を、相槌を打つ形でとらえてオウム返しにすると、相手が話しやすくなる場合もある。そのためには、相手のあげ足をとってその責任を責めていると誤解されないような態度が必要だ。
※2:ともかく、お客様の興奮覚めやらぬ状態に対処する必要がある。
※3:課長はまたも未確定の情報を口にした。
※4:ともかく、混雑時のスリルライド。万全の要員配置が必要だ。

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小説本文中に登場する人物・団体・施設・出来事等は全て架空(フィクション)です。
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●制作・著作:蒔苗昌彦(担当講師)

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