●セクション29
6人目の『モニター係』がテーブルについた。
とにかく、ローテションに入っていたのは、皆、パートタイマー。『モニター係』の彼女も、例に漏れなかった。3年前の春から、大学が長期の休みとなる期間に限ってだが、バトルジェットで働いている。おそらく、累計の労働時間は、今までインタビューをしたパートタイマーたちの中では最も長い。
『モニター係』は、何も起きなければ、静かで見通しのいい二階監視室のイスに、ヘッドセットフォーンを付けて、座っているだけとなる。
が、今回のように、腰抜けジェットや不具合ジェットが発生すると、『発車係』からの依頼で、前述(セクション28)の a → b → c → d → e の流れにて、引き込み操作を行なう。
また、万一、全域停止ブレーキが掛かった時には、運行モニターおよびTV画像で、各ジェットの停止位置と乗客の状況を掴み、誘導を行なうために各所へ散るスタッフへ状況を伝える役割を担う。そのため、このポジションは、全館放送装置も操作する。
あなたが『モニター係』に就いている間、腰抜けジェットが1台発生したと思うが?
「はい」
引き込みはスムーズにいった?
「はい」
腰抜けジェットの後に、安全バーが降りない不具合ジェットが1台発生したはずだが?
「はい」
こちらの引き込みも、スムーズにいった?
「はい。でも、ただ・・・」
ただ?
「ジェットを車庫側へ送り出したあと、ポイントをリフト側へ戻すところまで、つまり操作dまではスムーズにいったのですが・・・」
えっ? そのあとトラブルでも?
「ええ。でも、あれをトラブルと呼ぶかどうかは・・・」
彼女は説明した。それによると・・・
(1)2台目の引き込みを終えた。
(2)ポイントをリフト側へ戻した。(つまり操作d)
(3)出発待機区画の自動発進システムを再開させようとしてディスプレーの『再開』ボタンを押した。(つまり操作e)
(4)しかし、ボタンの表示は切り替わらなかった。
(5)引き続きボタンを押してみたが、切り替わらなかった。
(6)『発進係』から問い合わせがあった。(ヘッドセットフォーンにて)
(7)事情を話した。
(8)協議の結果、とりあえず、もう一台、引き込んでしまうことになった。
「えっ? というと?・・・」
私はこの引き込みの理由が分からず、彼女の話を遮った。
同時に、マネージャーとチーフが大きく息を吸い、吐きながら肩を落とした。もう一度大きく息を吸ったマネージャーが、私に向かって話した。
「一区間に2台のジェットが進入したら、全域停止ブレーキが掛かるシステムになっていることは、何度も聞いて理解してますよね。樫見さん。」
「はい。」
「このシステムの作動が予想された場合、とりあえず走行台数を減らして、様子を見ることが許されているのですよ。」
「はあ?・・・」
「つまり、ジェットは次々と帰還しますよね。」
「ええ。」
「だから、次々と発進させなければ、プラットホームの手前の区間に2台のジェットが進入し、全域停止ブレーキが掛かることになるじゃないですか・・・」
「あ、なるほど。それで、とりあえず1台引き込んだわけですね。でも、そのこと、マニュアルに掲載されていましたっけ?」
「いや、マニュアルには出ていません。しかし、ライド運営部としては、この方法を正式に認めています。」
「マニュアルに出ていないのに、部が認めているんですか?」
「ええ。あくまでマニュアルに掲載されていないだけで、マニュアルが禁止しているわけではありませんから。」
「うーん・・・」
理屈が合っていることは分かったが、妙な感じがした私は考え込んだ。
「樫見さんが理解に苦しむこと、分からなくもないですが、いずれにしてもこの処置によって台数が減るわけですから。全域停止は避けることができるし、運行間隔にもゆとりができるし。問題なし、と我々は考えています。」
「そうですか・・・。」
「ま、もしこのことについて議論するなら後に回して、続きを話してもらいましょう。」
『モニター係』に就いていた彼女は説明を再開した。
3台目を車庫へ引き込むことが決まったあと・・・
(9)引き込み操作を非常操作盤にて実施してもらうよう『最終確認係』へ依頼した。(ヘッドセットフォーンにて。)
(10)その間、管制情報室の当番デスクへ内線をかけ、何か異常を感知していないか、問い合わせをした。
(11)デスクからは、確認の上、折り返し電話が来ることになった。
(12)電話を切ると、『最終確認係』から、引き込み終了の報告があった。(ヘッドセットフォーンにて。)
(13)運行モニター画面を見ると、ポイントは、リフト側へ向いていた。
(14)出発待機区画内の自動発進システム再開を、再び試みようとディスプレーのボタンを押した。
(15)しかし、表示はまたも切り替わらなかった。
(16)『発進係』と『最終確認係』へ、状況を話した。(ヘッドセットフォーンにて。)
(17)さらにもう一台引き込んで様子を見よう、ということになった。
(18)『最終確認係』が引き込みを行なった。
(19)再びディスプレーのボタンを押してみると、今度は切り替わった。
(20)管制情報室の当番デスクから折り返しの内線電話があり、コンピュータに異常なしとのことだった。
(21)こちらも通常に戻ったことを伝え、内線電話を切った。
(22)休憩から戻ったスタッフに押し出され、次のポジションへと移った。
彼女の話は以上であった。
「きっと、あれが起きたんだな・・・。」
『モニター係』をローテーションへ戻してすぐ、マネージャーはチーフへ言った。
「そうでしょうね。きっと、『あれ』が・・・。それでさらに2台も引き込む結果となり、A子さんが・・・。」チーフは険しい顔つきになった。
「ああ・・・。」マネージャーも眉間に深い溝を作った。
「あのう、『あれ』って、なんですか?」私はマネージャーへおそるおそる尋ねた。
「チーフ、説明してあげて。頭に来たから、オレ、施設管理部長へ直接文句つけてくる!」マネージャーはさっと立ち上がり「ご免なさい、樫見さん。今日はこれで。もし、何かあったら、無線で呼び出して下さい。」と早足で去っていってしまった。
「では・・・。いや、このテーブルの上でなく、監視室で説明したほうが、分かりやすいでしょう。」そう言ったチーフは、私を監視室へ連れていった。



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