●セクション33
13時。課長は大学病院からまだ戻ってこなかった。マネージャーとチーフが揃ったので、8人目、最後のインタビューを開始した。
『最終確認係』。女性。今年3月から、平日の午前と、土日祝日の午後を中心に働くパートタイマー。
プラットホームから出発待機区画へと移動したら、あとはリフトに吊り上げられるのを待つだけの出発前ジェット。安全バーがすべて降りているかどうか。急きょ降りたいと申し出ている乗客がいるかどうか。ジェットの左横から、『最終確認係』は目視確認する。
問題がなければ、そのまま放っておく。すると、リフトが空いたとたん、自動発進システムによってジェットは押し出され、上昇を始める。
が、もし問題を発見した場合には、『発車係』および『モニター係』と常時つながっているヘッドセットフォーンでそれを伝えた上、車庫への引き込み作業を開始する。
腰抜けジェットの引き込みは、スムーズにできたか?
「はい.。」
その次の不具合ジェットの引き込みは?
「はい。スムーズにできました。」
さらに2台、引き込んだジェットについては?
「それについては、今、反省してみれば・・・。」彼女はうつむきながらも、落ち着いてゆっくりと説明してくれた。
監視室のタッチパネルで自動発進システムが再開できないという状況を受け、出発待機区画の『非常操作盤』を起動させた。これで、監視室の出発待機区画への関与が遮断され、『非常操作盤』のボタン操作が生きる。ここのボタンも、物理的実態があるローテク式のボタンだ。監視室のタッチパネルとは異なる。
彼女は、リフト方向へ戻っているポイントを、車庫方向へ切り替えた。それから、引き込み口の近くまで行き、車庫内をのぞきこんだ。そこには、遊撃手でもあるP君が立っていた。彼とは何度もローテーションを組んだことがあった。 さっと合図を交わし、『非常操作盤』に戻った。そして、3台目のジェットを車庫へと送り込んだ。
そのあと、ポイントをリフト方向へ戻し、『非常操作盤』の起動スイッチを切った。
出発待機区画に、4台目のジェットが入ってきた。これも引き込むことになってしまったため、再び、『非常操作盤』を起動させた。
リフト方向へ戻っているポイントを、またも、車庫方向へ切り替えた。それから、引き込み口の近くまで行き、車庫内をのぞいた。すると、そこには見慣れない女性が立っていた。しかし、その女性はバトルジェット専用のユニフォームを着ていた。しっかりしている感じで、どうみても新人には見えなかった。 そして、視線もかみあった。
が、念のために、握りこぶしを作った右腕を大きく天へ突き出すアクションをした。これは、出発前の有人ジェットを車庫へ送り込んでしまうことになった場合の合図として、正式に定められているボディランゲージである。
それから『非常操作盤』へ戻り、4台目のジェットを車庫へと送り込んだ・・・。
「今から思えば、あの見慣れない女性が、A子さんだったわけですね・・・。」
『最終確認係』は肩を落とした。
「A子さんのほうからは、返答のアクションはありませんでしたが、うなづいたように見えたので、スタンバイできていると思ってしまったのです。 申し訳ありませんでした。あの時、私が4台目を送り込みさえしなければ・・・。」
顔を下に向けたままの彼女は、涙をこらえているようだった。マネージャーとチーフが気づいたかどうかは分からなかったが、同性の私にはわかった。彼女を問い詰める立場となっていた自分が急に罪深く思えてしまい、私は質問を続けることができなくなってしまった。



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