フリーWebカレッジ 組織運営学科 コース000030
「職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方」 担当講師:蒔苗昌彦


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 パート1「職務分掌マニュアルのあり方」 

●セクション3「規定と職務分掌マニュアルの関係」

前のセクションの結論で述べたように、職務分掌マニュアルは、規定として位置づけるべきである。
ついては、当セクションでは、規定と職務分掌マニュアルの関係に関して述べる。

3‐1「規定という概念の定義」

まず、当コースでいうところの「規定」という概念の定義をする。その定義は「組織運営上・業務運営上の取り決め」とする。「規定」という言葉は、「規程」という言葉に置き換えて頂いても、私としては全く構わない。が、一つの組織内では、どちらかに漢字を統一することをお勧めする。当コースでは、便宜的に「規定」のほうに統一する。※1

規定(または規程)が紙媒体に掲載された状態は、規定書(または規程書)と呼ぶこととするが、職務分掌マニュアルについては紙媒体の状態になろうとも、「マニュアル」のあとに「書」をつけて「マニュアル書」とすることはしない。

もっとも今どき、中学生、いや小学生であっても「マニュアル書」などという言い回しをしない。だから、上述は蛇足な説明と思う人もいるだろう。
が、実は、ここに「マニュアル」という言葉の特性がとてもよく反映されている。それは、「マニュアル」という言葉に「冊子」という意味が付与される場合もあるという特性だ。この特性により、「マニュアル+書」という言い回しを取らなくとも、多くの人が冊子化された状態を思い浮かべる。


ところが、オートマチック(自動)に対してマニュアル(手動)という言葉を当てはめる場合もある。さらにややこしいことに、「マニュアル人間」という俗語もあり、それはニュアルに規定された通り機械的に動く人間を指す。機械的に動くということは、自動化された状態とも表現できよう。こうしたこともあって、当コースの冒頭にて「具体的に突き詰めていくとマニュアルという言葉への意味づけ・解釈は意外にも多様」と断じた次第である※2。ともかく、当コース内では、意味づけ・解釈が合致するよう、様々な面からきっちりと定義していく。

3‐2「規定が必要な理由」

規定の定義が「組織運営上・業務運営上の取り決め」である以上、規定が必要な理由はシンプル。「取り決めがなければ、組織や業務は混乱するから」という理由である。この理由に反対する人は、よもやいないだろう。※3

ただし、その取り決めの内容が不適切であれば、当然、組織や業務は混乱する。したがって上記理由は、正しくは「適切な取り決めがなければ、組織や業務は混乱するから」となる。

この理屈は、職務の遂行に関する規定として位置づけるべき職務分掌マニュアルにも応用でき、したがって「適切な職務分掌マニュアルがなければ、組織や業務は混乱する」と言える。※4

3‐3「規定に包含される職務分掌マニュアル」

当コースは、職務分掌マニュアルを、職務の遂行に関する規定として位置づける。ということは、両者の概念関係を記号で表せば、「規定⊃職務分掌マニュアル」となる。言葉で言えば、「職務分掌マニュアルは規定に包含される」となり、それはすなわち「規定の体系の中の一領域が職務分掌マニュアルである」とも言える。
一領域が職務分掌マニュアルであるということは、他の領域に、他の規定類が存在するということだ。

規定の体系について述べ始めると、それはそれで一つの独立したコースとなる。(開講準備中) そのため、この課題にはここでは踏み込まない。が、ある程度以上大きな規模の組織に勤める人ならば、誰でも一度は、体系的に設定された規定集をご覧になったことがあると思う。万一その経験がないならば、是非、一度目を通しておいて欲しい。ちなみに、その際には内容を暗記する必要はなく、体系的な全体像を、おぼろげながらでも掴めば十分である。※5

3‐4「職務規定の細則としての職務分掌マニュアル」

規定が取り決めである以上は、規定体系の一領域である職務分掌マニュアルも“取り決め”である。何についての取り決めかといえば、職務の遂行に関する取り決めである。
この規定領域の総称は、職務規定(職務規程)でよい、と私は判断する。が、職務規定を展開するには、まず職務規定の全体像を記述する規定が必要である。
しかし、一つひとつの職務分掌マニュアルは、一つひとつの職務を記述するものである。その中で職務規定の全体像を記述することは不適切だ。
そこで、職務規定という領域を、「本則」と「細則」に分け、職務分掌マニュアルは細則に属させることをお勧めする。

3‐5「職務分掌マニュアルの個々の名称」

一つひとつの職務分掌マニュアルの名称については、名が体を表すことができるように、「それぞれの職務名称+マニュアル」という形式で、原則、よいと思う。たとえば、電車運行の業務においては、「運転士マニュアル」「車掌マニュアル」等のような名称だ。

ただし、職務名称が、他者から見て、職務名称らしく感じられないような場合には、「職務名称+職務マニュアル」という形式にしてもよい。

たとえば、「セールス」という名称の職務がある会社において、「セールスマニュアル」と命名してしまうと、セールスに関する一般論を勉強するための教科書と解釈されてしまう可能性がある。だから、「セールス職務マニュアル」と命名したほうがよい。「税務」や「福利厚生」という名称なども同様である。

しかし、職務という言葉を付けずして成立する名称と、職務という言葉を付けて成立する名称が、同じ規定領域の中に混在すると、不揃いな印象となる。だから、後者は「職務名称+担当者+マニュアル」という形式で処理することも一つの手段である。たとえば、「セールス担当者マニュアル」「税務担当者マニュアル」「福利厚生担当者マニュアル」等となる。※6

いずれにしても、名は体を表すようにしつつも、その組織に馴染みやすい名称を設定すべきで、このコースにおいて一つの方法に決めつけることはしない。

3‐6「要約」

以上を要約すると、
ある程度以上大きな規模の組織においては、
 ↓
職務分掌マニュアル以前に体系的な規定集があり、
 ↓
規定体系の一領域に職務規定があり、
 ↓
職務規定は本則と細則に分かれ、
 ↓
一つひとつの職務の遂行に関する規定は、「職務名称+マニュアル」の名称にて、職務規定細則の中に位置する。
となる。

3‐7「小さな組織における規定と職務分掌マニュアル」

以上、ある程度以上大きな組織を前提として「規定と職務分掌マニュアルの関係」を述べた。最後に、小規模な組織における「規定と職務分掌マニュアルの関係」について、考えを述べる。

まず規定については、体系的な規定集となるほどまで数量を揃える必要がない場合が多い、と思う。

たとえば、私以前代表取締役を務めた会社は、初めは有限会社で、その時代は長年に渡り、役員を除き、従業員の雇用がゼロという状態が続いた。だから、就業規則すら不要で、役員の報酬と経費支払いに関する規定さえあれば組織運営は可能。体系的規定集の必要性はなかった。

職務分掌マニュアルについては、代表取締役以外の取締役は、すべて非常勤で、完全な成功報酬制度であり、かつ全員が販売専任であり、かつ、販売方法は全面的に委任してあったから、彼らの職務分掌マニュアルは不要だった。

では、常勤の代表取締役はどうであるかと言えば、代表取締役がすべての会社機能を一手に担い(つまり、一人で何でも行ない)、別の社員との間で役割分担を決める必要性がなかったため、職務分掌マニュアルを作成する必要はなかった。

厳密には、たとえこのような実質一人会社であろうとも、代表取締役が死亡したり重病・重傷となった際に、請負契約した相手先に対する責任を果たすため職務分掌マニュアルを作成しておくべき、と言える。が、コンサルタント・研修講師という職務の特性上、代表取締役である私固有の能力に全面依存せざるをえず、いくら職務分掌マニュアルを精緻に作成したとしても、他人には代行不可能と判断。そのため、死亡・重病・重傷の場合は免責としてもらえるであろう業務、また保険による現金賠償すれば済む業務だけを請け負ってきた。

極端な事例かもしれないが、この事例から、小規模な会社においては、規定集や職務分掌マニュアルが必ず要るわけではないことを理解して頂けると思う。

では、どのぐらいの規模が小規模で、どのぐらいの規模が大規模として扱うべきか? その組織の業務特性、社会的責任の種類・規模、今後の業務拡大予定、社会的使命の大きさ等、固有の条件次第なので、具体的に組織を特定しない限り、判断はできない。

<次セクションへ続く>

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●制作・著作:蒔苗昌彦(担当講師)

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※1:
規定」という言葉を一切用いず、「規程」に徹している場合も見かける。だが、「規程」という言葉は、「何々を規程する」というような動詞形で用いると違和感がある。それゆえ、「何々を規定する」「どのような規定があるか」「規定書を配布した」といったように統一が可能な「規定」のほうに、便宜的に統一させて頂く。
※2:
規定の話から脱線してしまって申し訳ありません。それにしても、職務分掌マニュアルの意味づけは多様どころか、正反対ともいえる意味にすらなる。それこそ、用語の規定により、意味づけをがっちり固める必要がある。
※3:
規定が必要であるということは、何でもかんでも、一挙手一投足まで規定しなくてはならないのか?」と質問してくる人が、結構いる。答えは「No!」だ。そんなことをしたら業務に支障が出る。規定は、必要な事柄についてのみ、的を絞って定めることが肝要。そのため、何について規定すべきか、何については規定すべきではないか、見定める眼力が必要となる。
※4:
この後も何度も繰り返すが「不適切な職務分掌マニュアル」があるぐらいなら、職務分掌マニュアルがないほうがずっとまし。ともかく、不適切な職務分掌マニュアルは混乱の原因となる。
※5:
職務分掌マニュアル同様、規定も改訂管理がされていない状態だと、組織内で信頼を失い、誰も当てにしない形骸化した規定となる。もし、受講者の中に、まだ自組織の規定書を見たことがない人がいるならば、「まだ見ていない自分が不勉強だった」のか、「規定が形骸化しているから見るまでもないと思っていた」のか、ご自身に問うてみて下さい。
 
※6:
このような命名の仕方についても、職務分掌マニュアルに関しての話である。2-1の但し書きでも述べたような、全社員・全職員共通のマニュアルには、適用されない。たとえば、火災発生時の対応の仕方を記したマニュアルであれば、「火災対応マニュアル」(フリーWebカレッジではコース000032にて「火災対応手順書」の事例として火災対応マニュアルの具体的記述を紹介している)。人事制度上の評価制度の運営方法を管理職に伝えるマニュアルであれば、「評価者マニュアル」等の命名となる。