人事制度の構築と運営の方法」(MM式チームワーク主義育成型人事制度 フリーWebカレッジ


フリーWebカレッジ 組織運営学科 コース000070「人事制度の構築と運営の方法」 担当講師:蒔苗昌彦


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<パート4>

●セクション1「当人事制度の長所・短所」

さて、前パートまでは当人事制度、つまりMM式チームワーク主義育成型人事制度の構築・運営の方法について一通り述べた。

では、当人事制度の長所・短所は何か?

実は、何も当コースで改めて言うまでもなく、物事の長所と短所は、往々にして表裏一体である。

たとえば、冷水は夏に浴びると気持ちよいが冬に浴びれば風邪を引く。※1

ついては、以下、当人事制度の長所・短所を列挙するが、すべてに渡り、長所の後にその裏腹となる短所を付帯して述べる形とする。が、ただ短所を述べても建設的ではないため、弊害の軽減策があり得る場合には、それも述べる。

■長所1.チームワーク主義であること

当人事制度の長所は何よりも「チームワーク主義」であることだ。

たとえば、当人事制度は、縁の下の力持ち的な職務に就く人であってもその業績を汲み取る仕組みになっている。与えられた職務と設定したチャレンジ課題、予定外の仕事をこなしたか否かが、実務考課(業績考課)に反映されるからである。パート2セクション4パート3セクション8の中段参照)戦略系や企画系、大規模販売系等、華々しい業績を立てる機会に恵まれている職務につく人だけの業績だけが汲み取られる仕組みというわけではない。「どのような職務であっても、組織運営の上で必要な役割分担」との考え方に基づくからであり、それでこそチームワークは可能となる。

もし、どうしても、戦略系や企画系、大規模販売系等、華々しい業績を立てる機会に恵まれている職務につく人にだけ業績が汲み取られる仕組みの組織にしたいのあれば、そうでない系統の職務は他社に業務委託するか、人事制度をコース制にして考課制度と賃金体系をコース別にする等の方法が考えられる。

しかし、当コースが述べる人事制度は、パート1セクション1にて、当人事制度が対象とする組織タイプの条件的要素の1において、

1)多種多様な業務を抱えている(単一業務専門の組織ではない)
2)多種多様な職務を組織内に必要とする
3)少数の職務の踏ん張りだけで組織を維持することは到底不可能である
とした。

その上で、条件的要素の2において、

4)他職務との間で人事異動が不可能な職務で生涯同一職務の正社員が一部
  必要だとしても、同じ人事制度の中で処遇したいと考えている
とした。

そうである以上、地味な職務を業務委託したり、コース別人事制度とすることはできない。あらゆる職務を一つの制度の中で扱うのである。いや、正確に言えば、あらゆる職務を一つの制度の中で扱うべき組織タイプに適合した人事制度が、当人事制度なのである。冒頭で「当人事制度の長所は何よりも「チームワーク主義」であることだ」と述べたものの、それはそうなるべくしてそうなったのである。いわば自明の理である。

では、「長所1.チームワーク主義であること」の短所は何か?

それは、「華々しい業績を立てる機会に恵まれている職務に就いている人で、チームワークで仕事をするより個人プレイで仕事をしたい人が、当人事制度では自分の努力が報われないと勘違いしてしまい、意欲を喪失してしまうこと」等である。

こうしたケースに対する対策は、無条件で考えれば人事制度をコース制にして考課制度と賃金体系をそれぞれコースごとに定める等の方法があるが、当人事制度はそれをしないことが大前提である。

この制約の中での対策となると、
1)当人事制度では努力が報われないとの勘違いを解く。

2)個人プレイで仕事をすることより、チームワークで仕事することのほうに価値観をシフトするように、当人を教育する。

の二つとなる。

対策1)のほうは、前パートまでに説明した当人事制度の具体的な仕組みをそのまま伝えれば、考課により努力が報われることが判るはすだ。それが判れば、よほど当人の理解力が低下していない限り、またはよほど当人の猜疑心が強くない限り、勘違いは自然と解けよう。ただし、縁の下の力持ち的な職務に就いた人の業績と、華々しい業績を直接比較して点数をつけることはしない。したがって、こうした点数方式でないと満足しない人にとっては、当人事制度の具体的な仕組みを懇切丁寧に説明し勘違いを解くことができたとしても、納得を得ることはできないであろう。

そうなると、対策2)により、どうにかしてその人の価値観をチームワーク型へシフトしなければならない。

では、具体的にどのような教育手段によって、この価値観変更が可能となるか? 無条件で述べれば、様々な教育手段が考え得る。たとえば、自衛隊等の軍事組織の新人訓練では、徹底的なチームワーク教育を施すと聞く。この教育内容に見習った合宿研修を実施し、教官経験者を招聘するという案も考え得る。ここまで極端な研修でなくとも、チームワークを理解させるための合宿研修を請け負ってくれる研修会社は、必ず見つかるだろう。研修予算が潤沢な会社・団体は、そうした研修会社へ発注してみるのもよかろう。

だが、どこの会社・団体も、発注できるとは限らない。この類の研修は、参加費用も決して安くはないからだ。しかも、一日、二日の参加日数では、個人プレイヤーをチームプレイヤーへ変貌させることは不可能で、相当長い期間の参加としなければならず、またフォロー研修も頻繁に行わなければ元に戻ってしまうだろう。或る特定の社員・職員を、その個人の価値観変更のために、長期に渡り仕事を離脱させることへの疑念の声も出てくるかもしれない。

その人がよほど会社の将来を担うと期待される人物ゆえ特別に教育投資するとのケースも、理屈の上では、成り立ち得るかもしれない。

しかし、そもそもチームワークで仕事することのほうに価値観を置かない人が、当人事制度が対象とする組織タイプにおいて、会社の将来を担うと期待されるであろうか? きっと期待されないであろう。当人が心の奥底からチームワークを切望しているかその真実を見極めることは難しいが、少なくとも日頃からチームワークを否定する言動はなく、チームワーカーとしての振る舞いがそれなりにできている人でなければ、会社の将来を担うと期待されることはなかろう。

よって、当人事制度を適用すべきタイプの組織においては、「対策2)個人プレイで仕事をすることより、チームワークで仕事することのほうに価値観をシフトするように、当人を教育する」ための手段として、「個人プレイヤーをチームプレイヤーへ変貌させるための長期研修へ送り込むこと」は、よほど研修予算が潤沢でない限り、お勧めできない。

では、こうした人に関しては、教育を諦めるしかないのか? いや、引き続き雇用し賃金を支払い続ける以上は決して諦めてはならない。そのまま放置しておけば周囲に悪い影響を与えてしまう。

では、他に教育の方法があるか? 方法はある。その方法とは、当人事制度における人材育成のPDCAサイクルパート2セクション1参照を長きにわたり運営し、彼の身をそのサイクルの中に置くのである。彼が頑固であれば年月はかかるかもしれないが、いずれは変容するであろう。何しろ、当人事制度で用いる基礎能力開発基準一覧パート2セクション3もしくはコース000701参照)の中でも、一つの能力分類として、チームワーク関連の基礎能力の開発・伸長を社員・職員に求める制度となっている。

しかし、それでも中には、かたくなにチームプレイヤーへの変貌を拒む人も僅かながらいるかもしれない。そうした人に対する当人事制度としての最後の対策は、区分制度のオプションとなる「長期雇用フルタイム時給労働者の位置づけ」(パート2セクション6参照)を活用して、管理職・未管理職の区分から、長期雇用フルタイム時給労働者の区分へと異動して頂くことだ。もし彼がそれを不服とするならば、残るは転職勧奨か解雇の処置しかない。それは大変残念なことである。しかし、チームワークが重要なタイプの組織においては、チームワークに抵抗する人は変貌して頂くか、管理職・未管理職の区分から外れて頂くか、転職勧奨か解雇をするしか手立てはない。放置しておけば、チームワークが乱れ、結果、組織や業務も乱れることになる。

以上でとりあえず、当人事制度の長所(と同時に短所)の筆頭となる「チームワーク主義であること」についての説明を終えるが、とても重要かつデリケートな課題なだけに、さらに詳細かつ具体的な考察をかけるべきだ。それらについてはパート6の Q&Aコーナーにて行うこととし、以下、当人事制度の第二の長所・短所へと話を移そう。

■長所2.人材育成主義であること

人事制度の有無、種類に関係なく、人材育成が可能となる体制が組織にあることは良い事である。組織は人で構成されているのだから、人が育ってこそ組織が育つ。だから、当人事制度の長所として、人材育成主義であることを挙げることは、蛇足との指摘を受けるかもしれない。

しかし、バブル崩壊、経済低迷、経済低成長と続いた中、人材育成を否定しないまでも、気長に人を育てていこうする意欲が減退した企業が増えた感がしてならず、それゆえ改めて人材育成を主義とした人事制度を強調することが大切と私は考え、たとえ蛇足と言われようとも第二の長所として挙げる。

では、当制度において人材育成主義はどのような方法に現れているのか? それは、人材育成のPDCAサイクルパート2セクション1参照を人事制度として回し、社員・職員の身をそのサイクルの中に置く方法に現れている。そうすれば、よほど抵抗する人は別として、人材育成は実現できるであろう。

しかし、この人材育成のPDCAサイクルは一回転するのに半年もしくは一年かかり、サイクルを一回や二回、三回や四回回転させたからと言って、急に人が育成されるわけではない。つまり、「人材育成のPDCAサイクルを制度として回し、社員・職員の身をそのサイクルの中に置く」という方法によって実現できる人材育成には、長い年月を必要とするのである。つまり、即効性はない。

さて、長所の裏腹には短所があるとの前提で上述しているわけだが、人材育成主義の短所は、ずばり「即効性がないこと」と言える。

こう断じると、「当人事制度の人材育成のPDCAサイクルに即効性がないだけの話であり、別の手段を用いれば、すぐに人材育成が実現できるのでは?」との質問が出てくるだろう。そうした質問が出てくるのは当然である。しかし、少なくとも私には、人材育成に即効性のある人事制度は、具体的な仕組みとしては考えつかない。それどころか、人事制度以外の教育方法、たとえばセミナーや集合研修、通信教育、eラーニング等においても、少なくとも単発では総合的な人材育成に関する即効策はないと思っている。即効性があったとしても、あくまで、特定の個別テーマに関する即効性のはずだ。もし、総合的な人材育成に即効性がある単発のセミナーや集合研修、通信教育、eラーニング等があるのならば、ぜひ、私にその存在を教えて頂きたい。このコースの普及に注ぐ労力を止め、その教育手段の普及に協力したいと思う。が、残念ながら今のところ、私の情報ネットワークにおいては、それはみつかっていない。

では、人材育成の手間を掛けず即戦力となる人材が欲しい会社・団体は、どうすればよいのか? その答えは、優秀な社員を他社から引き抜いたり、そもそも雇用契約期間を短く設定し、すぐに成果の出せない社員には転職してもらったり、成果を保証する業務委託先を探して仕事を任せたりすることにある。または、雇用は維持するものの、ともかくノルマを達成しさえすれば総合的な人材育成ができてようといまいと関係なしと割り切り、ノルマ達成主義の賃金分配システムで組織運営を行うことにある。

だが、当人事制度が適用される組織タイプは、このような運営に適した組織タイプではない。パート1セクション1参照だから、たとえ人材育成のPDCAサイクルに即効性がないと分かっていても、それを止めずに、継続は力なりと信じ、粘り強く人材育成をしなければならない。慌ただしい現代において継続が大変なことは百も承知しているが、当人事制度が適用される組織タイプにおいては、これが最も有効な方法である、と私は思う次第だ。

以上でとりあえず、当人事制度の長所(と同時に短所)の二番目となる「人材育成主義であること」についての説明を終える。これもとても重要かつデリケートな課題なだけに、さらに詳細かつ具体的な考察をかけるべきだ。それらについて、および、三番目以降の長所・短所や、もっと具体的な方法に関する長所・短所についてもパート6の Q&Aコーナーにて行うこととし、いったん次のセクションへと移ろう。

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※1
この例えを厳密に捉えれば、冷水そのものの純な長所・短所の記述とはなっていない。「夏に浴びると」「冬に浴びれば」という、それぞれの前提によって、長所・短所を導き出している。したがって、この例えは、長所・短所が表裏一体であることを示す例として、論理的には適切ではない。が、まさに人事制度においても、何を前提にするかによって長所にもなり、短所にもなる。つまり、前提なしで、人事制度の長所・短所を論じることはできないのだ。それゆえ、パート1のセクション1と2にて、二度も、当コースで述べる人事制度の前提となる条件的要素を列挙したのである
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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●制作・著作:蒔苗昌彦(担当講師)

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