「人事制度の構築と運営・運用の方法」(MM式チームワーク主義育成型人事制度 フリーWebカレッジ


フリーWebカレッジ 組織運営学科 コース000070「人事制度の構築と運営・運用の方法」 担当講師:蒔苗昌彦


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<パート4>

●セクション6「制度移行に伴う不利益変更

当コースが述べる人事制度でなかろうと、古い人事制度から新しい人事制度への移行期間の課題として人事担当者が一番苦労するのは、賃金の制度変更に関してではなかろうか?

法律的な観点からしても、たとえば「みちのく銀行事件(平成12年 最高裁第一小法廷判決)」で「就業規則の変更により一方的に不利益を受ける労働者については、不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないとした」(厚生労働省サイトより引用)と言われるように、「就業規則の不利益変更の法理」は適切に用いなければならない。

が、たとえ法律的にクリアしたとしても、制度変更前の賃金の額は、既得権として守ってあげたいもの、と私は思う。

ただし、あくまでも守ってあげたいのは言葉通り「制度変更前の賃金の額」である。「制度変更前の賃金の制度」を守ろうとしては、やっぱり制度変更は中止という結論になるか、既得権者と新入社員との並行の賃金制度を行なっては?といった意見が飛び出すことになろう。

そこで対処法として、「調整給」により「不利益性を緩和するなどの経過措置」を取る。

しかしながら、そのままでは総人件費のせいで会社が倒産しそうな事態において、話が異なる。人事制度の変更と同時に、総人件費が下がるべく計算された賃金制度の変更を行わざるをえない。

倒産しそうとの理由であっても不利益変更には違いないから、「就業規則の不利益変更の法理」により、従業員全員の同意を得なければならない。全員の同意を得ずに行えば、法理に反する形となる。上述の「みちのく銀行事件」でも、主な労働組合に加入している73パーセントの従業員の同意は得たが少数組合の同意を得ることなく変更をしてしまったそうだ。(厚生労働省サイトを参照のこと

では、新人事制度として、MM式チームワーク主義育成型人事制度へと変更する場合を想定した場合、どうなるのか?

実は、当人事制度は前パートの説明ですでにご理解頂いているように月給の組み立てがシンプルなだけに、移行期間の対処もシンプルである。それも、不利益変更を行うか・否かにかかわらず、シンプルである。

ご記憶にあると思うが、パート3のセクション12「年齢給」にて説明したように、当人事制度の年齢給は「給与ベース」に上乗せさせる形となる。この「給与ベース」は、個人的属性を一切反映させず一律とする。管理職・未管理職の区分すら関係なく、役員を除く全社員・全職員、「給与ベース」が同額となる。

不利益変更を行う場合には、年齢給と能力給の刻みをそれぞれ決め、将来を見通したシミュレーションをした上で、この「給与ベース」の額を原資が確保できるレベルまで下げればいいのである。もちろん、新人事制度への移行後に会社の業績が大幅に回復していった場合には、この「給与ベース」を原資を上回らないレベルまで引き上げればいいのである。再び業績が悪くなり不利益変更を行う必要性が出た場合には、給与ベースの額を原資が確保できるレベルまで引き下げればいいである。さらに回復した場合には、また引き上げる。要は、当人事制度の「給与ベース」は、上げたり下げたりすることによって総人件費を簡単に調節できる安全装置として使えるのだ。

ただし、不利益変更を行う場合、つまり給与ベースを引き下げる場合には、全従業員(当人事制度においては「未管理職」の区分に入る人たちとなるが)の同意を得る必要があることは、一般に同じである。「総人件費を簡単に調節できる安全装置」と述べたところの「簡単に」とは、あくまで人件費計算上の簡単さであって、不利益変更に関する全従業員の同意を得るのが簡単という意味ではない。こと労働組合が活発な組織においては、労使協議がさぞ大変であろう。使用者側の粘り強い説得が必要になる。

しかし、少なくとも当人事制度の給与の構造がシンプルで、「給与ベース」の上げ下げに争点が集中するため、同意を得るのは大変でも協議内容はシンプルとなるはずだ。もちろん話は賞与にも波及するだろうが、前パートで述べたように「給与ベース+年齢給」を賞与算定の基礎とする関係上、おそらくすぐに「給与ベース」をいくらまで下げるかの話に戻ることだろう。

さて、いったん不利益変更の話に入ってしまうと「調整給」についての話が置き去りになってしまうが、組織全体の総人件費を引き下げる必要がなく、しかし将来の負担に備えるために制度変更を行い、それに伴い給与の仕組みも変える場合もあろう。つまり、制度変更前後の総人件費は同じか、違っても大幅ではない場合の給与の仕組み変更だが、その際に「調整給」は活用できる。特に、いゆわる年功序列型の給与から、当人事制度の給与へ移行する場合は活用できる。

当人事制度では、各人への等級づけに応じて「能力給」を支給し、この「能力給」だけが、各人の能力に応じた給与項目となる。厳密には職務手当も能力に応じたとも言えなくないが、これは名前の通り「手当」であり、給与に占める比率も「年齢給」「能力給」よりも低く抑えるので、主要な給与項目ではない。

で、移行の第1段階で、新人事制度の観点から、まず各人へ「仮の等級づけ」を行う。この「仮の等級づけ」は、各人の能力を気にせず、他の給与項目と合算して不利益が出ない月給額から逆算して、一番近い能力給テーブルの等級へと、いわば機械的に行う。その上で、一期もしくは二期、新人事制度の人材育成のPDCAサイクル(基礎能力開発基準、作業項目一覧表、チャレンジシート、能力考課、実務考課)を回した上、等級付けを「仮」から「真」へとする。そして、もしこの「真」への変更時に等級付けが下がってしまう人が発生した場合、その人の能力給は下がってしまうので、下がった分の差額の調整給を支給する。この調整給の支給は、本人の能力開発・能力伸長の努力の結果、昇級して能力給が上がり差額がなくなる段階まで支給する。つまりこの人は、新人事制度以降に能力開発・能力伸長を行わない限り、月給の上昇が据え置きとなるわけだ。

が、とにもかくにも、この調整給の話は、総人件費を下げないと会社が倒産するという事態においては、しょせん関係ない。外部者の私としては、そうした事態となることのないよう、ただただ祈るしかいない。

ともかくデリケートな課題なので、さらなる疑義も多くあろう。それは、例によってパート6のQ&Aコーナーにて展開することとし、次のセクションへ移ろう。

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●制作・著作:蒔苗昌彦(担当講師)

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