〜バブル時代の快作ドタバタ青春コメディ〜   

 このところ、なぜかにわかにバブル時代の復古ブーム。8年ぶりのホイチョイ映画「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」が公開され、それに合わせてスピリッツ長寿連載4コマ漫画の傑作選『気まぐれコンセプト クロニク ル』も発売。雑誌やテレビのバブル特集も目立つ。そろそろ、あの狂乱の時代をノスタルジックに振り返ってみる気分になってきたということか。
 わたしの場合、当時はバブルとほとんど縁のない職場で書籍編集の仕事をしていたが、1980年代末を背景にした小説「がんばれ!だめお。国際ビジネス奔走記」を読みながら、たしかにあの頃はなんでもありだったよなあ……と懐しい記憶がいろいろ甦ってきた。
 ビジネス小説みたいな(いやむしろ体験記か)タイトルにもかかわらず、じつはこれ、お祭り騒ぎまっただなかの時代に翻弄される若者の奮闘を描いた、 一種のバブル青春小説なのである。

 主人公の"僕"は、20代後半の自営業者——と言えば聞こえがいいが、事実上の無職。中途採用で入った中堅企業の総務部文書課に勤めていたが、上司と合わず退職。木造モルタル、北向き・風呂なしの安アパートで暮らしていた"僕" は、新聞の求人欄で見つけた「企画書ライター募集」の広告を頼りに、昔とった杵柄で出来高払いの外注仕事をはじめる。
 やがて、大手広告代理店が元請けのイベント業務に関わり、記録係として打ち合わせにも出席することに。カリフォルニアとメキシコに完成する新工場のお披露目イベントだという。イベントを仕切る元請け代理店子会社のプロデ ューサーは、バブル当時あっちこっちにいたイケイケドンドンのアバウト男。 その言いなりになって西海岸出張にまでつきあい、タダで旅行できてよかったと思っていたら、現地のアメリカ人責任者が失踪。アバウト男は連絡がつかず、多少なりとも事情を知っているのは"僕"ひとりという状況に。再渡米を余 儀なくされた"僕"は、とんでもない仕事の渦中に放り込まれる……。

 名の通った代理店が受注したまともな国際イベント業務なのにそんないい加減な話があるもんかと思う人もいるかもしれないが、当時はもっとめちゃくちゃな話がいくらでも転がっていた。出版業界でも、マガジンハウスの編集者が出張経費を精算したら1000万円分の領収証が足りず、象を買ったと言い訳した ——という伝説がありました。今にして思えば、こういうデタラメさが時代のパワーにつながっていたのかもしれない。
 したがって、この小説で主人公が経験するドタバタ騒動もさもありなんというか、ある意味、時代の空気をリアルに伝えている。ビジネス一辺倒ではな く、高校時代の初恋の女性に対するほのかな恋心を駆動力にしてがんばるところもなかなかいい。
 火事場の馬鹿力というか、とくに若い頃は、追いつめられると思っても見な かった能力を発揮するもの。安価な労働力にマニュアル化された仕事をこなすことしか要求しない最近の風潮は、能力開発のチャンスをあらかじめ捨ててい るのでは……というような感慨も湧いてくる。
 小説としてはもうちょっとディテールを書き込んでほしいところだが、ワンシッティングで一気に読める楽しい快作だ。

               2007年3月  大森 望(書評家・翻訳家)

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書評 by 大森望氏 

がんばれ!だめお。国際ビジネス奔走記(作・蒔苗昌彦)

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