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「寺と風呂屋と謎の観音」  フリーWebカレッジ  蒔苗昌彦


三、木像の重さはどのぐらい? 

 のんきな初日も夜の帳が降り始めた。寝泊まりするならここしかないと決め込んでいた裏小屋は本堂の西側となる。一人やっと通れる大きさだけ壁をぶち抜き、付け足したらしい。

 小屋には玄関がない。本堂正面を経由する必要がある。まずは三段の階段。次に踊り場。次に三〇畳ほどの板の間。仏像が座す大きな仏壇。この裏手に、小屋とのアクセスがある。

(いったい、なんのために小屋を作ったのかな?)

 高泉は、暇に任せて考察した。だが、記録文書などの手かがりは一切ない。

(ま、これのおかげで寝起きできるんだから、ただ感謝してりゃあいいか・・・)

 薄暗くなってきた。十年以上前にディスカウントショップで買った自動巻きの腕時計は七時を回っている。

 まだ寝るわけじゃない。といって、することもない。とりあえず蝋燭を探すことにした。小屋の棚を改めてさぐってみたが、見あたらない。が、仏像のそばに蝋燭が立っているのを見掛けた気がし、本堂へ移動した。

(ありやがった! ありやがった!)

 仏壇の両脇に古びた蝋燭がささっていた。中央には一メートルほどの座像。宗教と縁が薄い生活をしてきた高泉でも、それが仏像であることは理解できた。昔、修学旅行で見た奈良の大仏に形が似てなくもないからだ。しかし、等身大の立像のほうは、何だか見当つかない。やたら怒った顔つきだが、浅草で見た仁王像とも違う。

「それにしても、随分すすけてやがらぁ!」

 声は本堂内に響き渡った。誰か第三者が目撃していたならば、立像へ喧嘩を売っているように見えただろう。不気味な心象を大声で吹き飛ばそうとする心理が働いたのだ。

「今こうしてある以上、心配無用なんだろうが・・・。こんなんでも盗まれる可能性はあったのかねえ」

 大声を出して度胸がついた高泉は、普通の口調で独り言を始めた。
「実は、国宝級だったりして? そのうち、お宝鑑定でもしてもらうか。売っぱらって安いのに買い換え、差益をいただく手もあるし」

 相続の条件には寺の管理としかなく、仏像売買に関しては触れてない。ちゃっかりそのことを思い出した。

「待てよ。たいして値打ちが無いから、今まで盗まれずに済んだのかも?」

 一歩ひいて、像全体を眺め回した。

「いいや。重くて持ちだせないからかもしれん」

 こんどはぐっと近づき、ドアをノックするようにコンコン叩いた。

「ふむ。こっちは木像らしい。そっちはどうだあ」

 次に立像へ近づき、コンコン叩いた。

「ふむ。これも木像だ。でも、こんだけの大きさがあると、木像でもそうとう重いのだろうか?」

 高泉は立像に抱きついた。

「よっこらしょっい!」

 気楽に持ち上げようとしたが、びくともしない。

「中に石でも詰まっているのかよ。くそお、えいっ!」と、大男ならではの馬鹿力を発揮した。

 ぐらりん。

 立像は動いたものの、抱き合ったまま倒れそうになった。

「おっとと・・・」さらに力を入れてどうにか立て直した。第三者から見れば、今度はアルゼンチンタンゴを踊っているみたいだ。

「けっ! クレーン車かショベルカーでも使わない限り、持ち出せないぜ。おかげで腰をひねってちまった。くそっ!」

 立像に向かって初日最後の悪態をつき、高泉は裏小屋へ戻った。

 夜の帳は完全に降り、蝋燭一本の明るさになってしまった。が、薄気味悪い心象はすっかり消えた。ものぐさゆえの適応能力といえよう。 

 ほどよい温度だ。車輌の往来も、産業道路なだけに夜はまばらである。静かだ。横になっているだけでも気持ちがいい。

(起きて半畳、寝て一畳。飯を食っても一合半。昔の人もよく言ったものだなあ・・・)

 段ボール箱に詰め込むことができたほどの煎餅布団に仰向けとなった高泉は、時知れずまどろんだ。

<次の章へ続く>

 
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2006年10月20日

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