二十、前提も分からず何を言う
ずしーん、ずしーん。
「なんだ、また火炎大神か・・・ とにかく俺は眠いんだ。用があるならさっさと言え」高泉は不浄の大地にごろんと寝そべったまま、面倒臭そうに言った。
「悔いよ、改めよ」ぶおーっ!
超高層なみの火炎大神は、どんよりした空へ火炎放射した。
「進歩のない奴だなあ。それじゃ前回と同じじゃないか。そのセリフは仏教のセリフじゃないって、教えたろ。何度言えば分かるんかい」
「うるさーい! 悔いよ、改めよ。さもなくば焼き払ってくれようぞ!」
「おまえに焼かれても命を落とすわけじゃないようだから、好きにしな。だがな、火炎大神。『悔いよ、改めよ』と言う以上は、その前提を提示できるのかいな」
「なんじゃあ、『前提』とは?」
「おいおい。質問しているのはこっちだぜ。まあ、もっとも、前提という概念は、哲学用語であっても、宗教用語じゃないだろうからな・・・ おまえさんに問うだけ無駄かもしれん」
「うるさーい! 仏は絶対なる存在だ。ごちゃごちゃ言わずに、無条件で聞けい!」
「おっ、それだよそれ! 『無条件』という概念。その概念が理解できるならば、『前提』という概念も理解できるはずだぞ火炎大神。一歩理解が前進したじゃないか。よしよし」
「うるさーい! うぬに教わりにきたわけじゃなーい。うぬに教えにきたんじゃあ」
「だめだめ。『前提』という概念も理解できない奴には、人様へレクチャーする資格はないの。これでもな、俺、坂上部屋で研修講師をやってるんだぞう」
「なんじゃあ、それは?」ずっしーん!
「ほう、少しは興味が湧いたかい。教えてやるからよ、そのでかい格好、どうにかならんのかね。だいたい、こんな大きいのを相手にしゃべっちゃ、俺様の美声がいかれちまうじゃん」
「うるさーい! うぬに、身長をとやかく言われる筋合いではないわ」ぶおーっ!
「なあーに言ってやがんだ。とにかく、あんたの事情は味噌屋のお婆さんから聞いてよーく知ってるんだぞ。今じゃでかい図体してるが、もともと小人物だったくせしてよ」
「うっ」火炎大神は言葉につまった。
「さあさあ、悪いようにはしないから。小さくなって小さく」高泉はあぐら姿になって言った。
「いつまで突っ立んでんだよ。あんまり意地を張るんなら、あんたが仏の門番になった事情、ここで一発ご披露してもいいんだぞ」
「うっ。うるさーい! またも焼き払ってくれようぞ!」ぶおーっ!
火炎大神は、高泉どころか不浄の大地の地平線までをも焼き払ってしまった。
「あちちち。火炎大神のやつ。前提という概念のことも分かってないくせして、火炎の熱さだけは一人前でやがる。ほんとに、これしか能がないんだから・・・」灰と化して飛び散りながらも高泉は言葉を吐いた。
フェードアウト、そしてフェードイン。
(それにしても綺麗だなあ・・・)
また美しい草原を歩いていた。そして菩提樹のある蓮池に到着した。
「うっ、うっ、うっ」
「おや、お嬢さん。また泣いているのかね?」
「ええ」若い女はかがんだまま振り返った。
「さぞ深いわけがおありでしょう。でも、この美しい自然へ目を向けさえすれば、どんな悲しみでも薄れるのでは?」
「そうですね」女は立ち上がり、涙をぬぐわず微笑んだ。
「ところで高泉さん。その服、お似合いですね」女は言った。
「そう。ありがとう。でも俺、どんな服着てるんだっけ?」
「僧服ですよ」
「あ、そうか。いやあ、これまだ、恥ずかしい感じもするけどねえ」
「すぐに慣れますよ、高泉さん」
「だといいけどねえ」
「大丈夫ですよ、高泉さん。高泉さん、高泉さあーん・・・」


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