三十二、法律とペテンの関係論
「あーあ、それにしても眠いなあ」
「当然ですよ。睡眠中なんですから」火炎大神は指摘した。
「あ、そうか、これまた例の夢かあ。どっちにしてもやたら眠いから、俺、寝るよ。夢の中でさらに寝るなんて、変な話だけど」高泉は不浄の大地に仰向けになった。
「だめだめ、寝てしまっては・・・。講義の続きを、約束したでしょう? さあ、起きて下さい」
「うんにゃ、俺は寝る。ふあー」高泉は寝入りかけた。
「あ、しょうがない師匠だなあ。仕方ない」そう言って火炎大神は立ち上がった。
うおーっ、おおおーん!
火炎大神は全身から巨大な声を振り絞った。すると身体がものすごい勢いで大きくなり、富士山顔負けの大きさになった。
どっしーん! ぶあーっ!
「起きろおー、高泉!」火炎大神は地響きを立て、全天が焼け落ちそうなほどの火炎を吐いた。
「どうだあ! 高泉。目がさめたかあー」
「わかった、わかった。起きるよ」高泉は仰向けからあぐら姿に戻った。
「ならばいい」火炎大神はすうーっと縮んだ。
「大変失礼しました。では、師匠、よろしくお願い致します」大神はあぐら姿で背筋を伸ばした上、礼をした。
「あー、でも、何をよろしくすればいいんだっけ?」
「いつもの講義ですよ」
「あ、そうか。そうだったな。ほんで、今回のテーマは?」
「法律とペテンの関係論です」
「そんなテーマ、約束したっけ? まあいいか。なかなか面白そうだし」
「では、お始め下さい」火炎大神は再び礼をした。
「お、では始めるぞ。えーと、法律は社会運営の前提となっていること、前に確認したよね」
「はい」
「そして、えーと、ペテンとは、人間社会が円滑に運営されていることが前提となるよね。大神、あんた元ペテン師だから、この辺り、よく分かるだろ?」
「はあ?」火炎大神は頭を捻った。
「はあ、とはなんだ。とぼけるなよ。分かるだろ?」
「師匠。今ここにいる私は、師匠の夢の中の私ですから、実際の私に求めるような訊かれ方をされても、困ります」
「そうかあ。ややこしいなあ、夢の中の問答って。ほんじゃ、ま、とにかく、人間社会の円滑な運営が、ペテンを可能とするための前提だ。いったん鵜呑みにせよ」
「はっ、御意」
「で、一つ前に言ったように、法律は、社会運営の前提だ」
「なるほど。初回に教えて頂きました前提関係論から組み立てると、法律を起点とした場合、法律が大前提。社会運営が小前提。この二つの前提が確保されて、ペテンが可能となる。ということですね、師匠」
「そういうこと」
「つまり、法律がなければ、社会運営もさることながら、ペテンもできない。たしかに、無法状態だったら、ペテン以前に殺戮が展開されるでしょうからね。ほとんどの人が法律を守っているからこそ、それにより培われた人間どうしの信用を逆手に取って、一部の人がペテンを働くわけですものね」
「おお、いい子だ、いい子だ。よーく、分かったな。あ、いい子だなんて。夢の中の問答だから、俺自身に言ってることになっちゃうんだな。あら、お恥ずかしい。あっ! ということは、火炎大神のみならず、あの蓮池の女までも俺の投影なのか? なんだか気持ち悪いなあ・・・」
「師匠。気にしない、気にしない。だいたい、師匠は一般教養で心理学の単位を取った程度なのですから、素人の当て推量にも近いものがありますよ。それこそ論理的じゃない。さあ、脱線しないで続けて下さい」
「あ、そうだな。ごめん。だけど興味ぶかいから、区の図書館で心理学の本でも読んでみるかあ」
「税金を払った暁に、ですね」
「うむ、そうだ。大神、いや、俺様はいいこと言いやがる。あ、待てよ。北隣りの公衆施設。まだ税金を払わず私物化していること、忘れてた。俺は、言ってることと、やってることが違うぞ。自己矛盾だ」
「でも師匠。お掃除しているじゃないですか」
「二日に一回だけどね」
「それでも、充分高い頻度じゃないですか」
「そうかい? 大神がそう言うんなら、いや、俺自身がそう思えるのなら、二日一回で充分とするか。それにしても、税金払ってないのは心苦しいなあ。今の賽銭の伸び方じゃ、来年の確定申告もしょぼいだろうし」
「ならば、なにか地域社会に貢献できることでもしたらいいじゃないですか」
「公衆施設のお掃除の他にかい?」
「あれは罪滅ぼしでしょう? 社会貢献とはいえませんね」
「そうだなあ。じゃ、お掃除しながらでも、何かアイデア考えるとするか。ほいじゃ、ちょっくら公園で用たしてくらあ。またな、大神」
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