四十六、甘酒で打ち上げ
「いやあ、よかったよかった。本当に高泉さんのおかげだ」
ところ狭しと埋め尽くされたお汁粉屋のテーブルに、甘酒が行き渡った。
「肝心な星乃湯は来れないそうだが、なによりも崩落寺に感謝して、乾杯!」立ち上がった魚屋が威勢よく言った。
高齢者の比率も多いことだし、明るい時間でもあるし。まずは形だけでも早くという希望も多かったし。どのみち、飲んべえは蕎麦屋や寿司屋でやればいい話だし。だから季節は少し早いものの、店主特製の甘酒で乾杯することになったのだ。
わいわいがやがや。
「いやあ、結局、募金活動をしなくて済んで、助かったぜ。正直言って、どれだけ集められるか、えれえ心配だったもんな」魚屋が言った。
「そうか。おめえも心配だったのか。実は俺も心配だったのよ」寿司屋も告白した。
「お互い、肝っ玉冷やしたわけだな」魚屋が首をすくめてみせた。
「やっぱ、俺たちにはてめえの商売で小銭を集めるのがせいぜい、ていうことだな。あははは」寿司屋は安心しきって笑った。
「ふえっ! なんじゃか儲かってそうじゃな。次の味噌漬け、倍で買ってもらうけんな。ふえっ!」味噌屋が寿司屋へ仕掛けた。
「だめだめ、そういう魂胆は。だいいち、星乃湯、継続することを決めたうえ、値下げもすることになったろ。皆その恩恵にあずかるんだ。味噌漬けも割引してくれなきゃあ」寿司屋は対抗した。
「おやまあ、廃業するはずだったのが、今度は値下げ? 星乃湯さん、随分がらりと変わったんですねえ」駄菓子屋のお婆さんが不思議がった。
「知事さんのおかげで、助成金が出ることになったんですよ」お汁粉屋が情報を伝えた。
「おやまあ、銭湯への助成金なんて、とっくの昔から出ていたのかと思っていましたよ。公衆衛生か何かの関係でねえ」駄菓子屋は勘違いした。
「違うんですよ。新しく特別の助成金を知事さんが出してくれたんですよ」お汁粉屋が説明した。
「おやまあ、知事さん、お金持ちなんですねえ」駄菓子屋はまた勘違いした。
「違うんですよ。特別の助成金は、知事さんが議会に通してくだすったんですよ。お役所のお金ですよ」
「あらあら、そうですか。やっと分かりましたよ」駄菓子屋はようやく理解した。
「それにしても、あの知事。腕っ節が強いんだなあ」魚屋は関心した。
「たしかにそうだろうけどよ。議会の賛成もなきゃあ、予算は通らなかったんだ。議員さんたちにも感謝しなきゃあ。な、高泉さんよ」寿司屋が高泉へ確認した。
「ああ、そうだね」肝心な星乃湯が欠席したことが気がかりな高泉は愛想なく応えた。
「ま、ちっと想像してくれりゃ、俺たちの生活事情、誰だって簡単に理解できることさあ」寿司屋は言った。
「まあな。考えてみれば、超高層おったてて維持するのに比べりゃ、ささやかな予算だ。当然かもな。でも、ありがたいこったあ。な、みんな」寿司屋が会場の賛同を求めた。会場は各人各様に感謝の意を表明し、甘酒の打ち上げは解散となった。
「じゃ、崩落寺。八時にな」
寿司屋での慰労会を企画した魚屋が、北へ向かう高泉の背中に、威勢のいい声を掛けた。
しかし、星乃湯の欠席、やはり気に掛かる。高泉は腕組みをしたまま、大また歩きで星乃湯へ向かった。
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