|
あくまで私個人の印象となるが、ジェームス・キャメロン監督の「タイタニック※」ほど、話題になった映画はない。 しかし、今となっては十年以上前の映画で、その後も他に良い映画は多く作られているわけだから、特に若い人はタイタニックに私ほどの強い印象を持っていないことだろう。 実際、つい先日も20代の人たちと映画についてゆっくり会話をする機会があったが、彼らにとってタイタニックは、最大級のインパクトというわけではなかった。 もちろん人の好みは様々だから、公開当時、話題が渦巻く中であってもさほどインパクトを受けなかった知人もいた。 興味深いことに、先日会話した20代の人たちも、公開当時に大きなインパクトを受けなかった知人も、その性別と理由は同じであった。みな男性で、理由は「恋愛映画だから・・・」というものである。 もう少し詳しく彼らの理由を説明しよう。彼らは、タイタニックをパニック映画だと思い込みそれを期待していたのだが、いざ映画が始まってみると前半のほとんどが恋愛映画のように描かれている。それも、ゆったりとした展開であったため、眠気がさすほど退屈だったそうだ。そのうちの一人は、「船が氷山にぶつかってようやく目が覚めた・・・」と語っていた。 実は、こう言う私も男性であり、知り合いの女性たちがタイタニックは「最高の恋愛映画」と囃し立てるものだから、それならば観る気がしない」と映画館には結局行かずじまい。公開から数年してようやく、「観ない限りは批評する権利を得ることができないから・・・」と、自分に義務を課す形でいやいやレンタルビデオ店からテープを借りてきたのである。どうやら、私も含め、「恋愛映画」および「恋愛映画という用語」は、男性陣の鑑賞意欲をそう大きくかき立てるものではないようだ。 もっとも、私の場合は、「タイタニックがパニック映画だ」と事前にふれ込まれていても、映画館へ足を運ぶことはなかったであろう。私にとっては、パニック映画という用語は、恋愛映画という用語と同様、鑑賞意欲をかき立てるものではないのだ。 ところが、借りてきたビデオをブラウン管テレビのあまり良いとは言えない画質で観た私は、タイタニックにとても感動した。そして、その後、繰り返し何度も観た。映画館の大スクリーンで観なかったことを毎回悔いたが、この後悔の念を超えるほどの感動が、毎回あった。レンタルビデオ店が古びてきたビデオを多数処分しているのを知った際には、何本も買い込み、まだ観ていない男性の知人たちにプレゼントして廻ったほどである。 では、この私が、誰かに「タイタニックはどんなジャンルの映画ですか?」と質問されたら、「恋愛映画」とも「パニック映画」とも答えない。だが、そう答えないにしても、実際には「恋愛映画」の要素も「パニック映画」の要素もしっかり入っている。これら要素を包含し、かつ、私が感動したところの恋愛やパニックではない要素も包含し、かつ、薄っぺらな映画と誤解を与えない適切な映画ジャンルの提示は、非常に難しい。 あえて言えば「人生映画」だが、これだと巨編というイメージが伝わらない。私の感動した要素であるところの、生きることに積極果敢なヒーロー「ジャック・ドーソン」(レオナルド・デカプリオ演)の姿も、「人生映画」の一言では、矛盾こそしないが浮かび上がってはこない。 だから、私が他者に対し、私が感じるところのタイタニックの魅力を伝える際には、映画のジャンルを特定せず、いきなり或るシーンの説明をする。 そのシーンとは、ジャック(レオナルド・デカプリオ)が、ローズ(ケイト・ウィンスレット)の飛び降り自殺から救ったことへのお礼として、富豪たちの晩餐に招かれ、そしてローズの母親からジャックの貧乏なその日暮しについて皮肉を言われ、それに対してジャックが応えるシーンである。DVD(ULTIMATE EDITION)ならば、DISC1のチャプター19「Dinner with Jack(一等船室のディナー)」の中の1シーンだ。 ジャック(レオナルド・デカプリオ)は言う。 「必要なものは揃っています。健康な体とスケッチブック。朝、目を覚ますと、また未知の1日が始まる。何が起こるか。橋の下で眠ることもあれば、世界一の豪華客船でシャンパン・・・。人生は贈り物。ムダにはしたくない。どんなカードが配られても、それも人生。毎日を大切に!」※1(訳:戸田奈津子) もちろん、こういう人物が実在しこういう金言を残したというわけではない。フィクションの世界の架空の人物像である。しかし、それに感動する人間が存在することは事実であり、その感動がその人の価値観や生き方に影響を与えれば、もはやフィクションではない。これは何も映画に始まった奇跡ではなく、文学、さらに遡れば口頭伝承される神話、民話、伝説等々、人類広範に続いてきた奇跡である。 だから、「しょせんフィクションだから・・・」という理由で否定することは不可能だ。夢はしょせん夢だが、夢を信じる人が存在するということは現実であるのとも同様である。 さて、いかがであろう。紹介したこのシーンに魅力を感じ、そして影響を受けた私にとっては、タイタニックは恋愛映画でもパニック映画でもないことが理解頂けたのではなかろうか? たしかに、人生、どんなカードが配られるか分からない。強いカードが配られる時もあれば、弱いカードが配られる時もある。悪い星の下に生まれれば、生涯、弱いカードばかりかもしれない。それでもギブアップせず、ジャックのように毎日毎日、その時その時を大切にし、そして最後の最後までベストを尽くす。 ・life is a gift(人生は贈り物) ・to make each day count(毎日を大切に!) 良い言葉だ。
<唯一の欠陥>前述のように私はタイタニックに大変感動したわけだが、それでも一つだけ、演出上、明らかに欠陥だと思う点がある。それは、ローズから頼まれてジャックが裸体画を描くシーンにおいて、女優のケイト・ウィンスレットの裸を実際に見せてしまう点だ。 なぜ、私はこれを欠陥と判断するのか? 沈んでいたタイタニックを先端技術を使い探査する。その現在から、ダイヤモンド「The Heart of the Ocean(ハートオブオーシャン)」の行方をめぐる過去への扉を開く鍵として、ヒロインの裸体画が登場する。※ それにもかかわらず実際の女優の裸を見せてしまうことにより、この絵のミステリアスな魅力が、薄れてしまうからだ。 女優の裸は、ほぼ全身の後ろ姿と、上半身の前姿で披露される。 だが、後ろ姿は肩ごしから腰のあたりまでを見せ、臀部はぎりぎり見せず、前の姿は乳頭が見えない範囲で鎖骨から乳房上部の膨らみまでを見せるに止めておくべきだろう。演出上、それでは裸体の見せ方が足りないと言うのであれば、スケッチのほうの裸体をさらにクローズアップすればよいと思う。 駆け落ちを誓うに至ったものの、直後タイタニックは氷山に衝突し、結果的に二人はたった一度の交わりしか持てなかった。このたった一度の交わりでも、その時の情熱は百歳を超えてなおローズの脳裏に鮮やかによみがえる・・・。この情熱の強さを観客に対して裏付けるため、女優の裸を見せてインパクトを与えておくのも、一つの演出手段には違いない。しかし、二人が交わるのは裸体画を描くシーンにおいてではなく、その後逃げ込んだ船倉に貨物として積まれていた自動車へ入った後のシーンである。抱き合う二人の熱い息が自動車の窓ガラスを水滴で曇らせ、その窓に手のひらがあたり、跡を残す・・・。※ このシーンが充分エロティックなだけに、スケッチを描くシーンで女優の裸を見せなくても、百歳を超えてなお鮮やかによみがえる情愛を裏付けることはできるはずだ。アカデミー賞11部門受賞作品「タイタニック」で唯一惜しまれる欠陥だが、だからと言って、タイタニックの鑑賞を他者に推薦することの障害には全くならない。
<主題歌について>セリーヌ・ディオンが歌うタイタニックの主題歌「My heart will go on」は、映画だけでもあり余る感動をさらに増幅し、そして永遠なものとした・・・と私は思う。もし皆さんも同じように思い、曲を買い求めるのならば、サントラ盤かDVDをお薦めする。当然、D VDやサントラ盤CDに収録されている主題歌「My heart goes on」は、実際に映画で流れる曲なわけだが、別途、セリーヌ・ディオンの自らのベストヒット曲集のアルバム「ALL THE WAY...A Decade of song」にも「My heart will go on」は収録されている。こちらのアルバムに収録される「My heart will go on」は、映画で流れるものとは異なる。映画ではシンセサイザー音源に頼っている度合いが大きいが、アルバム「ALL THE WAY...」では生楽器演奏もぐっと増え、バックコーラスも加わった。セリーヌ・ディオン自身の歌も、アルバム「ALL THE WAY...」では堂々としていて、まさにディーバ(歌の女神)の感だ。つまり、こちらのほうがずっとゴージャスなのである。 しかし、そうであっても、私はDVDかサントラ盤のほうを推薦する。映画で流れる「My heart will go on」は、セリーヌ・ディオンの歌い方に、小刻みに震えるような緊張感があり、それが、聞くたびに毎回、私の心を洗ってくれるからだ。この永遠の新鮮さは、おそらくは本編製作費のしわ寄せを受け少ない経費で作成されたであろう結果、やや貧弱に聞こえなくもない演奏(オケ)を包み隠して余りある。
<ポーカーで得た乗船券>文無しのジャックがなぜタイタニックへ乗ることができたのか? 掛け金代わりとされた乗船券をポーカーで勝ち取ったからだ。賭け事、そして人生は運に左右される。乗船券を得たジャックは、We're the luckiest sons of bitches in the world「おれたちは世界一 ツイている!」と、運の良さに歓喜する。だが、運良く手に入れた乗船券で乗ることができたタイタニックでローズと巡り逢い結ばれるが、二度と交わることもなく冷たい海へ沈んでしまう。それでも、最期にジャックは、ローズへ、Winning that ticket was the best thing that ever happened to me. It brought me to you. And I'm thankful for that, Rose.「船の切符は、人生で最高の贈り物だった。それで君に会えた。天のお導きだ。感謝で一杯だ」(訳:戸田奈津子)と言う。※ コインの裏表のように良い運と悪い運が同居することは、人生、よくあることだが、ジャックは最悪の事態になろうとも物事の良い側面だけをローズへ見せようと努めた。このジャック最期のシーンは、ジャックが積極果敢な楽天家と解釈する以上に、そこまで気遣うほどローズへの愛が深いと解釈することで感動が増す。 タイタニックは私にとって恋愛映画ではないとした私だが、このピンポイントだけで観れば、男女の愛を包み込んだ上、さらに性別を超えた人間愛にまで届こうとする、史上の愛の映画だ。そして、そこから発せられる強い愛のメッセージとは、「諦めずに生き延びろ!」というサバイバルのメッセージに他ならない、と私は感じた。
<本当のパーティと音楽>贅を尽くしながらも気取ってばかりの晩餐会から、一転して、三等船室の客たちが自ら作る安上がりだが活気あふれるパーティへ・・・。ローズは自殺したくなるほど窮屈な世界から解放され、生き生きとした女性の姿を見せる。これはタイタニックの沈没とジャックとの別れを乗り越え、百歳を超えるまで生き抜いたローズの逞しさの伏線ともなっているように思える。そのように強く印象づけられるのも、このシーンで流れる音楽の効果によるところが大きい。 曲の感じからしてアイルランドの民族音楽なのであろうが、私自身までも本当にそのパーティに参加しているような楽しい気持ちにさせてくれる。 タイタニックの音楽というと、セリーヌ・ディオンによる主題歌ばかりが注目される。しかし、誰もが踊り出したくなる明るく力強いアイリッシュ音楽も、主題歌なみに注目し聞き入る価値がある。もちろん、全篇に流れるジェームス・ホーナーのBGMもそうだ。 いずれにしても、皆さんも「本当のパーティ」にぜひ参加してください。
<上手いコンビネーション演技が生んだ「惹かれるからこそ余計生意気になる女」>主演のレオナルド・デカプリオとケイト・ウィンスレットのコンビネーション演技を軸として展開されるタイタニックだが、私は特に、DVD(ULTIMATE EDITION)DISC1チャプター17「Sketches and Stories(ジャックの才能)」の中の、ローズがジャックから「婚約者を愛しているのか?」と聞かれて腹を立る箇所から、怒った勢いでジャックのスケッチブックを乱暴に取り上げ覘き込む箇所までの演技が好きだ。 ローズはジャックに惹かれた。しかし婚約しているからそれ以上親しくなることができない。これに苛立ち、ジャックへ憤りをぶつける生意気な女が見事に描かれている。そしてその生意気な女と寛大に接する男も自然なタッチで描かれている。現実の男女関係も、良きにつけ悪しきにつけ、付き合う二人のコンビネーションが生み出すわけだから、なんだか面白い。 ちなみに、このチャプター17の中には、上記のシーンの後、美しく悲しげなピアノのフレーズをバックグランドに、パリのカフェで、虫の食ったドレスにありったけの宝石を身に纏い、遙か昔に去った恋人を待ち続けるマダム・ビジューのスケッチと逸話が紹介される。このシーンはタイタニックが人生を語る映画であることを裏支えし、かつ、格調を高める決定的な役割を、さりげなくながらも一瞬にして果たしている。 by 蒔苗昌彦 |
|||||||||||
| ※発売元: 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社 |
|||||||||||
|
※1「I've got everything I need right here with me. I got air in my lungs and a few blank sheets of paper. I love waking up in the morning not knowing what's gonna happen or who I'm gonna meet where I'm gonna wind up. Just the other night I was sleeping under a bridge, and now here I am on the grandest ship in the world having champagne with you fine people. 」「I figure life is a gift and I don't intend on wasting it. You never know what hand you're gonna get dealt next. You learn to take life as it comes at you.」「 To make each day count.」
*from "TITANIC "ULTIMTE EDITION DVD, |
|||||||||||
| ※DVD(ULTIMATE EDITION)、DISC1チャプター5「The Woman in the Picture(絵の中の女性) | |||||||||||
| ※DVD(ULTIMATE EDITION)、DISC1チャプター26「The Drawing(ローズの肖像画)」 | |||||||||||
| ※DVD(ULTIMATE EDITION)DISC1チャプター29「Two Souls United(星の世界へ)」 | |||||||||||
| ※発売元: 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社 |
|||||||||||
| ※DVD(ULTIMATE EDITION)DISC2チャプター24「The Promisewo Souls (約束)」 | |||||||||||
| ※発売元: 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社 |
|||||||||||