■セクション2
「ヒューマンエラー』と『準ヒューマンエラー』の対策上の共通点」
まず最初に確認しておくが、当コースはヒューマンファクター全般を対象とはせず、「ヒューマンエラー」と「準ヒューマンエラー」を対象とする。つまり、コース000003原因論の2-2にて示したヒューマンファクターの小分類※1のa(計画的犯罪・テロ等)と、b(悪意のある過ち)は対象としない。また、本来ならば「準ヒューマンエラー」すら対象とせず、「ヒューマンエラー」に的を絞りたいところだが、そうすればおそらくこの分類方法に異論がある人や不慣れな人を蚊帳の外に置いたとの誤解を招くかもしれないので、やはり両者を対象とする。
しかし、そうであっても、「ヒューマンエラー」と「準ヒューマンエラー」は分類が異なるため、対策の上で共通する点もあれば、相違点もある。ついては、以下、両者の共通点・相違点を確認する。
2-1「『ヒューマンエラー』と『準ヒューマンエラー』の対策上の共通点」
ヒューマンエラーや準ヒューマンエラーに対策を打つということは、ヒューマンエラーや準ヒューマンエラーという問題を解決しようとすることである。したがって問題解決の共通ステップ(コース000500にて詳述)が、適用できるという点が、両者の対策上の共通点となる。
この問題解決の共通ステップについての正式な説明は、コース000500を受講して頂くとして、そこで紹介したステップのみ転載すると次の通り。
【ステップ1】問題を明確にする。
【ステップ2】原因を掴む。
【ステップ3】原因を取り除くことが可能か否か、判断する。
(もしくは、そもそも原因が発生しないようにすることが可能か否か、判断する)
【ステップ4】3にて可能と判断した場合には、その原因を取り除く。(もしくは、そもそも原因が発生しないようにする)
【ステップ5】3にて否と判断した場合には、原因による悪影響を遮断することが可能か否か、判断する。
【ステップ6】5にて可能と判断した場合には、悪影響を遮断するための対策を講じる。
【ステップ7】5にて否と判断した場合には、悪影響を減少させるべく努力する。
このステップがそのまま、ヒューマンエラーに分類されるケース(以下、ヒューマンエラーとのみ記述)、準ヒューマンエラーに分類されるケース(以下、準ヒューマンエラーとのみ記述)の双方に適用できると私は考える。
補足すると、ステップ1でいう「問題」は、発生したヒューマンエラーもしくは準ヒューマンエラーにあたる。それを明確にするということとは、
・どのようなヒューマンエラー(もしくは準ヒューマンエラー)が発生したのか
・なぜそれをヒューマンエラー(もしくは準ヒューマンエラー)と判定したのか
根拠を示すという行為にあたる。
ステップ2以降でいう「原因」とは、ヒューマンエラーもしくは準ヒューマンエラーを発生させた原因・要因にあたる。それが複数である場合には、個々の原因・要因ごとに、ステップ3以降を進めていく。
さらに詳しい説明については、コース000500を受講して頂くこととして、ヒューマンエラーの事例を上記のステップに当てはめた場合どのようになるか、事項に記述する。
2-2「対策立案のステップ(手順・段取り)」
【ステップ1】問題を明確にする。
たとえば、小さめの部品をプレス機器によって型取りする反復作業(右手で材料を差し入れ、左手で作動ボタンを押し機器を作動させる仕組み等)にて、手を引き離さないうちにボタンを押して、手を挟み、指先を負傷したとする。
当然「労災(労働災害)はゼロでなくてはならない」という安全基準があり、「指先の負傷という労災(労働災害)」は、基準を下回る事態であることは明白だ。つまり、「指先の負傷という労働災害(労災)」が「問題」に該当する。
【ステップ2】原因を掴む。
「指先の負傷という労働災害(労災)」という問題を発生させる原因は何かと調べてみたところ、準ヒューマンエラーを発生させるような状況には一切ないことがわかった。そして、危ないとわかっていながらもついボタンを押してしまったことが判明した。
つまり、「指先負傷の労災」という問題の原因は、「ついボタンを押してしまったというヒューマンエラー」であることを掴んだ。
【ステップ3】原因を取り除くことが可能か否か、判断する。
(もしくは、そもそも原因が発生しないようにすることが可能か否か、判断する)
そこでさっそく対策を検討した。
そうしたところ、「両手で二つのボタンを同時に押さなくては機器が作動しないようにボタンを増設しては?」との案が出た。その案を上申をしたところ認可された。
この場合、「手を引き離さないまま、ついボタンを押してしまうヒューマンエラー」という原因が、そもそも発生しないようにすることが可能となったことに該当する。
しかし、せっかくの案が却下された場合には、「否」との判断になる。
【ステップ4】3にて可能と判断した場合には、その原因を取り除く。
(もしくは、そもそも原因が発生しないようにする)
前項に出た案を実行に移し、機器の仕様を変更すればその行為が当ステップに当たる。両手で二つ同時にボタンを押さなければ機器が作動しないようにすれば、「手を引き離さないまま、ついボタンを押してしまうヒューマンエラー」は発生しようがない。
【ステップ5】3にて否と判断した場合には、原因による悪影響を遮断する(悪影響ゼロにする)ことが可能か否か、判断する。
3の案が却下され、さらに検討したところ、
「材料を持つ右手にセンサー付きの手袋を装着。手袋を装着しない限り機器が作動しないようにする。手を引き離さないうちにボタンを押した場合には、機器が作動しないようにする」との案が出た。
この案を上申したところ認可が降りたならば、「手を引き離さないまま、ついボタンを押してしまうヒューマンエラー」が発生しても、指先負傷という悪影響は出ないことになり、悪影響の遮断が可能との判断ができる。
しかし、この案も却下された場合には、このステップにおいても「否」との判断となる。
【ステップ6】5にて可能と判断した場合には、悪影響を遮断するため(悪影響ゼロにするため)の対策を講じる。
前項に出た案を実行に移し、機器の仕様を変更れば、その行為が当ステップに当たる。
「手を引き離さないまま、ついボタンを押してしまうヒューマンエラー」が発生しても、手袋のセンサーによって、指先負傷という悪影響は出ない。これが、「原因による悪影響を遮断」という概念に該当する。
【ステップ7】5にて否と判断した場合には、悪影響を減少させるべく努力する。
3の案が却下され、さらに検討したところ、指先を薄く軽量な鋼鉄か強化樹脂等で覆う手袋を用いるという案が出た。
さらに、フットスイッチかフットペダルを設け、ついボタンを押してしまった直後「あっ!失敗した!」と当人が思い反射的に足を踏ん張れば、機器がスプリングで逆方向へ跳ね上がる装置をつけるという案が出た。
そしてこの両案を上申したところ認可され、実行に移せば、負傷発生率をゼロとすることは不可能だが、原因による悪影響を減少させるべく努力したことには該当する。
以上が、ヒューマンエラーを例にとった問題解決ステップの説明である。
さらに、準ヒューマンエラーを例にとって説明をすべきだが、準ヒューマンエラーの分類に入るケースはとにかくあまりにも多種多様で(コース000002参照)、一つの事例により準ヒューマンエラー全体のたとえとするのは無理があるため、上記だけに留めておく。
しかし、上記のステップが、準ヒューマンエラーという問題に対してでも適用できるという私の考えは、コース000500の受講によって理解頂けるはずだ。ついては、当コースの後に、コース000500を受講してください。
2-3「『ヒューマンエラー』と『準ヒューマンエラー』の対策上の相違点」
コースの000003「原因論」にて理解頂けたと思うが、準ヒューマンエラーは、組織運営上・業務運営上または当人の内面に、憂うべき状況があり、その状況自体が直接または間接の原因となって発生する可能性が大きい。そして、そうした状況を排除しても発生するのがヒューマンエラーである。
そのため、準ヒューマンエラーは、組織運営上・業務運営上または当人内面の憂うべき状況への対策を講じていく必要がある。
これに対し、ヒューマンエラーへの対策は、「組織運営上・業務運営上または当人内面に憂うべき要素はなし」との前提に立っての対策で構わない。
それゆえ、準ヒューマンエラーの対策のほうが、複合的で多面的で大がかりとなる可能性が大きい。
もちろんヒューマンエラーであっても対策はそれなりに複合的で多面的で大がかりとなる場合もあろう。しかし、組織運営・業務運営の基礎や当人内面にまで遡って対策を打つ必要はないので、準ヒューマンエラーの比とはならないはずである。
では、準ヒューマンエラーにおいて、組織運営・業務運営の基礎や当人内面にまで遡って打つような対策とは、たとえばどのような対策なのか? それはコース000003「原因論」のセクション3の3-1にて列挙した「原因を探る際の共通ポイント」によって浮上した原因に応じる対策となる。
たとえばコース000003セクション3-2の究明によって「理念の不備」が浮上した場合は、「理念の不備」を解消することが対策となる。
また、3-3によって「業務の方針の不備」が浮上した場合は、「業務の方針の不備」をなくすことが対策となる。
※1:
コース000003原因論2-2における分類記号は、a.計画的犯罪・テロ等、b.悪意のある過ち、c.準ヒューマンエラー、d.ヒューマンエラーである。