■セクション7
「対人関係のかけひきを適切に行える数のセンス」
【問題】
A、B、C、D、Eの5人でジャンケンを行い、最終的に負けた一人は、何らかの当番をしなければならない。誰もできることなら当番にはなりたくない。「最終的に負ける」とは、途中で複数の人が負けた場合、それ以後は負けた人の中で再度ジャンケンをしていく(勝った者抜け)、ということだ。また、いわゆる「後出し」は誰もできない。この時、普通ならそれぞれの人が当番をしなければならない可能性は等しく、1/5である。
さてこの勝負で、AとBとがひそかに結託していたとしよう。つまりAとBとは、残りの3人に気づかれないように、お互い何を出すか、事前に示し合わすことができる。ただしもちろん、ほかの人が何を出してくるかはわからない。またAとB以外に、結託はない。この時、AとBはうまく結託することで、それぞれの当番可能性を、どの程度にまで減らすことが可能だろうか。
(1)1/10 (2)1/8 (3)1/6
(2)を選んだ人:確信を持った計算で1/8とわかるなら、かけひきの数的センスはかなりあるといえそうだ。ただし参考までに、発展解説を読んでほしい。
それ以外を選んだ人:かけひきの数的センスの基本を理解するため、まずは基本解説を読んでほしい。
【基本解説】
こういった結託はいわば談合であり、もちろん正当なものではない。あくまでジャンケンにおけるかけひきの最適戦略ということで考えてほしい。なお、結託の話は出てこないが、ジャンケンや多数決に関するさまざまなコツやかけひきの話題を中学生程度向けに解説した、次の本があるので参考にしてほしい。
■加藤良平著『多数決とジャンケン/ものごとはどうやって決まっていくのか』(講談社)
この基本解説では、説明はやや直感的なもの(数学的に厳密でないもの)にとどめる。AとBは、ほかのCやDやEが何を出すのかはわからないので、取れる作戦としては、「同じものをだすか、違うものをだすか」を決めることである。もっとも違うものを出す場合、どちらが勝つほうを出すかという問題も残るが、これは交互に、あるいは半々の確率で、ということでいいだろう。
このように「当番」(「罰ゲーム」といってもいい)を一人だけ決めるような場合、何を出せば勝てるかはもちろんわからない。しかし同じ負けるのなら、大人数で負けた方がよい。たとえば最初の一回で、自分だけがグーで残り全員がパーだったら、その時点で自分が当番と決まってしまう。しかし同じ負けでも、自分を含む4人がグーで残り一人がパーだったら、負けた4人で再ジャンケンとなるわけだから、最終的に当番となる危険がずっと緩和される。
そう考えると、AとBとしては、CやDやEに勝てるかどうかはわからないにせよ、とりあえず同じものを出しておいた方が安全ということだ。そしてその作戦を最後まで貫いたとしよう。つまりAとBは、示し合わせて必ず相互に一緒の何かを出すのである。そうするとジャンケンは、事実上4者でやるのと同じことになる。したがってAおよびBが、最後に負け残る可能性は、1/4となる。逆にいえば残りの3/4では、AもBも勝ち抜けの側に回れるということである。AとBが負け残ったら仕方ないので、あとは二人で普通にジャンケンをする。そこで最終的に負ける可能性は半々なので、結局AもBも、結託することで1/8の可能性で当番をすることになる。結託がなければ可能性は1/5だから、かなり軽減されたことになる。
ただしどんな場合でも同じものを出すようにした方がよい、というわけではない。ジャンケンで決めるのが、「当番」ではなく、「褒美」だったとしよう。つまり最終的に勝った一人は、当番などでなく嬉しいものが当たるという場合である。この場合は、どうせ勝つなら、少人数(できれば最初から一人だけ)で勝つ方がよい。つまりAとBは、示し合わせて異なるものを出すのが合理的な作戦、ということになる。
【発展解説】
まずは数学的な厳密さにこだわる人向けに。最初の一回のジャンケンで、AとBが結託して同じものを出した場合(話を簡単にするため、再ジャンケンになってもそれ以降は結託しないとする)の効果を、実際に計算してみた。その作戦で最終的にAやBの当番が回ってくる確率は、それぞれ97/540となった。
結託がまったくなければ、確率は1/5つまり108/540だから、結託効果により実際に小さくなっている(当番を避けやすい)ことが分かる。つまり同じものを出すのは有利な作戦である。実際には再ジャンケンでも同じものを出すようにすれば、当番を逃れる確率はさらに上がる。これは5人でなく4人や3人でやる場合も同じことであり、それゆえ「基本解説」のやり方が最適戦略と、数学的に言い切れるわけである。
ちなみに同じものを出す作戦とは逆に、最初の一回に限り、AがパーでBがグーを出すように示し合わせたとする(残り3人はそのことを知らない)と、Aが最終的に当番になる確率は76/540、Bが最終的に当番になる確率は151/540となる。76と151の平均(113・5)は108より大きいから、やはり別のものを出す作戦は損ということになる。逆に「褒美決め」なら、別のものを出すのは有利になる。
もう一つ、補足がある。たとえばAとBの2人でなく、A、B、Cの3人が、D、Eの知らないところで結託していたとしよう。この場合、「当番決め」なら、3人が同じものを出すことで、それぞれの当番確率は1/9にまで減らせる。しかしA、B、C、Dの4人が結託したとすると、それぞれの当番確率は1/8と再上昇してしまう。必ずしも大人数で結託した方がよい、というわけではないのである。
最後に難しい問題。「当番決め」ではなく「褒美決め」ジャンケンの時に、A、B、Cの3人が、D、Eの知らないところで結託するとしたら、どうするのが有利だろうか。これは直感的に、A、B、C(順不同)の中で、「グー・グー・チョキ」や「チョキ・チョキ・パー」や「パー・パー・グー」のいずれかを出すのが最善のはずだ。つまりDやEに対して、「少なくともオイシイ形(少人数)では勝たせてやらない」という戦略である。仮に最初の一回のみそういう作戦を取った(再ジャンケン以降は普通にやる)場合、DやEが最終的に褒美をとれる確率はそれぞれ、本来の1/5(108/540)ではなく、95/540に減少してしまう。再ジャンケンでもその作戦を継続されたら、さらに低くなるはずだ。
講師/著者:加藤 良平 講師プロフィール
『多数決とジャンケン/ものごとはどうやって決まっていくのか』
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■子どもの視線で、多数決、選挙、ジャンケン、くじびきなどの仕組みやコツ、
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