■セクション1「当コース開講の趣旨」
企業の不祥事や事故が起きると、当然のことながら、必ず当該企業の代表が深く謝罪の意思を表明する。私のみならず受講者の皆さんも、メディアを通じて何度かそうした意思表明に触れたことがあると思う。その際、代表は再発防止への取り組みについても必ず誓う。そして、取り組みの具体的な方法として、しばしば発表されるのが「マニュアル」と「社員教育」だ。それほど、「マニュアル」と「社員教育」は、組織を望ましい状態にするために必要なアイテムとして広く認識されているのである。
いきなり暗い話から切り出してしまったが、ではガラリと明るい話へと切り替えよう。
日本に登場してから20年、最も成功した接客サービス業、世界でもトップクラスの接客サービス業、最も手本にすべき接客サービス業として評価が高い事業は?
そう問えば、多くの人が東京ディズニーランドと答えるだろう。そして、「その成功の原動力は?」と問えば、ウォルト・ディズニーの理念やアニメやキャラクター、テーマパーク運営ノウハウなどの膨大な知的資産等を列挙する人もいるだろうが、日本の地における経営実践の具体的なアイテムとして「マニュアル」と「社員教育」を上げる人が多いだろう。
実際、私が以前オリエンタルランドの社員として東京ディズニーランド事業に関わったことがあることを明かすと、必ずと言っていいほど、この事業における「マニュアル」と「社員教育」に関し質問攻めにあう。私にしてみれば、この2点だけが東京ディズニーランドの成功の鍵というわけではないことを実体験として知っているだけに、「マニュアル」と「社員教育」以外のことは一切答えなくて良いといったムードすら漂う質問攻めにはいつも苦笑する。
しかし、こうしたことからも「マニュアルと社員教育は、組織を望ましい状態にするために必要な定番アイテムとして広く認識されている」との見方は強化される。
では、世間の認識ではなく、私自身の判断はどうなのかと言えば、もちろん「マニュアル」と「社員教育」は組織運営の必須アイテムであると判断している。ただし、組織運営の必須アイテムは他にも色々とあるとの前提に立つ。
組織運営の上で必須アイテムと言いながらも、それだけが必須じゃないと言うと、あまり重要ではないように感じる人もいるかもしれないが、必須である以上、やはりそれは重要である。
だからこそ、実際に、当フリーWebカレッジのコース000030にて「マニュアルのあり方・作り方・使い方」を詳述したわけだし、当コース、およびこれに続くシリーズにて、「社員教育(職員研修)」を論じるのである。
当コースの対象者は、組織運営の中枢となる職務に就く人および教育担当者・研修担当者とする。そして、「社員教育(職員研修)」に関し、その概念の定義とポイントを、私見として述べる。この私見に対する理解と批判を通して、受講者が携る組織の運営がより一層円滑になることを願う。
なお、当コースおよびこれに続くシリーズはすべて、「社員教育(職員研修)」に限定して語る。家庭教育や学校教育等は、対象外である。軍隊教育も対象外である。いくつか共通点もあろうが、だからと言って、対象外の教育にまで言及しているとは誤解せずに、受講して頂きたい。