■セクション5「『安全管理』と『危機管理』の対象と担当者 旅客運輸(航空や鉄道等)のたとえ」
たとえば、旅客運輸を行う会社(航空や鉄道等)を想定してみる。旅客運輸という一つの業務の中であっても、「安全管理」「危機管理」ともに、様々な対象があろう。その中でも最優先の管理対象は、旅客運輸の装置・機器等である。なぜならば、装置・機器等が不安全では、旅客運輸の業務がそもそも成り立たないからである。
さて、極端な話、同じ旅客運輸であっても、人力車による旅客運輸であるならば、人力車の運転手が、人力車という機器に一人で一貫して関わることが可能となり※1、安全管理と危機管理は兼務となろう。
しかし、航空機(旅客機)や高速鉄道(電車)という運輸手段を用いる会社において、装置・機器等という対象に関わる部署・職務は、装置・機器導入後、大きくは、整備・保守をする部署・職務と、操縦・運転をする部署・職務に分かれると思う。(以下、整備・保守のほうを甲、操縦・運転のほうを乙と呼ぶ)
この場合、甲は、装置・機器の整備・保守を通じて、前述のaとbに専念して構わない。いや、専念することにより、安全確保に努めなければならない。
かたや、乙は、高速で移動するという、そもそも危険と隣り合わせの作業を担当するのだから、前述aの観点で作業に関わることはない。だから、航空機操縦・運転を通じて、前述のbとcに専念することになる。
再確認すると、甲は、純・安全管理(a)と、安全管理と危機管理が重なり合うところ(b)を担当する。
乙は、安全管理と危機管理が重なり合うところ(b)と、純・危機管理(c)と、担当する。
つまり、甲は、「安全管理」と「安全管理上の危機管理」を行ない、乙は、「危機管理」と「危機管理上の安全管理」を行う。したがって、装置・機器という対象に関して、甲は安全管理を担当し、乙は危機管理を担当することになる。
この「乙は危機管理を担当」という結論部分だけを聞いた人は、あたかも乙が安全管理はしないように思うかもしれない。が、結論寸前に述べた「危機管理上の安全管理」を行っている。この点を見逃してはならない。
それでも、「乙が危機管理を担当」という言い回しに抵抗がある人は、「乙が安全管理と危機管理を兼務している」と言っても構わない。
だが、もし私がその組織の最高責任者ならば、乙は、安全管理をするにしても、常に危機管理上の観点から安全管理をしてもらうよう指導・教育したく、やはり、「操縦中・走行中、くれぐれも装置・機器の危機管理をよろしく」と言うだろう。
また、甲に対しては、何が何でも安全確保するという意識で作業に取り組んでもらうよう指導・教育したく、「メンテナンスを通じて、くれぐれも装置・機器の安全管理をよろしく」と言うだろう。
そして、最高責任者たる私自身は、「組織全体に関して安全管理と危機管理の両方を行う」というだろう。
※1:
「人力車という機器に一人で一貫して関わることが可能」とする理由は、装置・機器のメカニズムが航空機や鉄道に比べたら高度・複雑ではないため、運転手自らが自分が使う人力車を整備・保守をすることが可能だからである。
が、もちろん、整備専門家へ外注してはならない、という意味ではない。予算的に可能ならば、専門家への外注は大いに結構なことだと思う。