セクション2

■セクション2「『安全』『危機』『管理』それぞれ単体の定義」

2-1「『安全』の定義」

「安全」という概念は、それ単体で扱うのであれば定義する必要がないほど、広く一般において意味を共有化できていると思う。極端な話、小学生と企業経営者、専業主婦と総理大臣の間であっても意味が通じる概念だろう。だが、当コースでは、かたや「危機」という、「安全」ほどまでには共有できていない概念との関係で論じることもあり、やはり念のため次の通り定義しておく。

当コースにおける「安全」の定義
生命が本来の姿で維持できる状態、財産が保全できる状態、所属社会・所属組織等の存続が可能な状態等※1、当事者が安心できる状態。
なお、ここでいう「当事者」とは、代理者や支援者として安心確保にあたる者(個人・組織)も含める。
またなお、「状態等」と「等」をつけたのは、「当事者が安心できる状態」が、この表現ではカバーし切れない可能性があるためである。つまり、この定義は、当事者の価値観によって概念が該当する対象が変化することを特性とする。※2

2-2「『危機』の定義」

前項にて、「危機」という概念は、「安全」ほどまでには共有できていない概念であるとした。
なぜならば、同一もしくは類似の概念として「リスク」や「危険」という言葉が用いられており、また周辺用語に「不安全」「異常」「非常」「緊急」等の言葉もあり、これらの言葉との関係を整理しきれていない中、危機という言葉が交わされる場面を見かけるからである。※3
では、「危機」を定義する。●当コースにおける「危機」の定義
安全を脅かす事象や事態、または、安全確保が不可能な事態
なお、ここでいう「確保」とは、「完全に確保すること」を指す。


2-3『管理』の定義

「管理」という言葉も、それ単体では、広く通じる言葉だと思う。
しかし、「マネジメント」や「コントロール」という言葉との同一性の観点から論じたり、「安全」「危機」や、その他「人事(管理)」「(管理)職」等の言葉と組み合わせた際に、意味が多少変化するように感じられる。それゆえ、やはり念のため、当コースにおける定義を次の通り設定する。
ただし、次の定義は、当コースにおいて「安全」および「危機」という言葉と組み合わせることを前提とした定義とする。

●当コースにおける「管理」の定義
当事者が望む状態を確保するために関係要素を制御する行為。
なお、ここでいう「当事者」とは、代理者や支援者として管理にあたる者(個人・組織)も含むこととする。


※1:
これらの事例をあげずに、ただ「当事者が安心できる状態」と記すほうが、定義文としてはすっきりしているが、イメージがつきやすいよう文の前段に事例を列挙した。

※2:
当事者の価値観によって該当する対象が変化する概念は、何もこれだけはない。
※3:
「リスク(risk)」は「危険」と訳される。リスクは組み合わせる言葉によっては、「負荷」「負担」とも解釈できなくない場合もあるが、それらを単体で英訳すれば「load」「 burden」となる。
「危機」を単体で英訳すれば「crisis」となるが、カタカナ英語の世界では、「危機管理」を「リスクマネジメント」かというのが主流な模様。「クライシスマネジメント」や「クライシスコントロール」という言葉を耳にする機会は「リスクマネジメント」に比べたら少ない。
と思えば、カタカナ英語としてはみかける機会が極めて少ない「emergency management」の対訳に「危機管理」があてがわれていたこともある。
これらの妥当性はともあれ、純英語、カタカナ英語、日本語が三者入り乱れているままだとややこしいので、当コースでは、「危機管理」という言葉だけを用いることを前提に、概念を定義していく。